こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?
光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、Zemaxコミュニティで注目されているトピックから、物理光学伝搬(POP)などレーザビーム解析機能で出てくるM2/Mスクエア/エムスクエアについて取り上げます。光ラーニングではMスクエアと表記します。
結論
- Mスクエアはレーザビーム品質を表す尺度で、理想的なガウスビームからどのくらい離れているかを定量化したものです。
- Mスクエアはビームパターンを特定するものではないので、物理光学伝搬の初期ビームの入力パラメータになりません。
- OpticStudioのMスクエアは近視野でのビームサイズと遠視野でのビームサイズの積を含んだ式で計算され、それぞれ理想的なガウスビームの何倍の大きさになっているかを検証しています。
このページの使い方
このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。
興味を持ったトピックに質問やコメントをしてみると、世界のOpticStudioユーザやZemaxエンジニアからの回答があるかもしれません。
Mスクエアでビームを定義できる?
トピックへのリンク: POPDオペランドでのM2(エムスクエア)計算方法 How is M2 (M squared) calculated in Physical Optics Propagation (POPD)?
トピックへのリング: M2値を使ってPOPで特定のガウスビームを設定できるか? Can I simulate a specific Gaussian beam in POP if I know the M2 value?
POPDオペランドのData25および26では、ビームのMスクエアを出力でき、これによってシミュレーションしたレーザの品質を確認できます。1つ目のリンクでは、OpticStudioがこの値をどう出力しているかを説明しています。2つ目のリンクでは、このMスクエアをビームを定義する入力パラメータとして使用できるかについて説明しています。
Mスクエアでビームを定義できない
Mスクエアはシミュレーション後のビームから出力することはできますが、シミュレーション用のビームとして入力することはできません。シミュレーションした結果から1つのMスクエアを計算することはできても、Mスクエア=2のビームプロファイルは無限に存在するからです。
2つ目のリンクにもある通り、Mスクエア=5のビームが全く異なるビームプロファイルをしていることが分かります。
こちらのページ(コミュニティポスト: M2トレランス M^2 Tolerance)に、Markさんから1つ分かりやすそうな説明がありましたので引用します。
レーザビームのMスクエアは、波面収差(の統計量)のようなものです。「ある設計の波面収差は1/4λである。」と出力することはできますが、「波面収差が1/4λになるような設計」は無限に存在するため、設計そのものを決定するのに波面収差の統計量は使用できません。
筆者個人としては、Mスクエアはビームプロファイルの決定には使えないことは分かりましたが、Mスクエアがビームの空間的な大きさを示しているのか、角度的な大きさを示しているのかは判別できるのではと考えます。
Mスクエアの計算は近視野と遠視野のビーム径の積
POPDオペランドで計算できるMスクエアの計算式はヘルプファイルに掲載されていますが、少しわかりにくいかもしれません。1つ目のリンクでは、その実際が説明されているので確認しました。
Wx(0)は、パイロットビームのウェスト位置での、解析中のビームのサイズです。言い換えると、解析中のビームが最小になると思われる位置でのビームサイズです。
なお、POPでのビームサイズは、2次モーメントです。ガウスビームの場合はよく知られた1/e2の半径と一致しますが、ガウスビームでない場合は”ピーク照度から1/e2まで低下する半径”とは異なるので注意が必要です。
Wx(z)はz位置でのビームサイズ(=2次モーメント)です。式を見ると、z→∞となっています。この∞がOpticStudioでどう処理されているかがヘルプファイルでは説明されていません。1つ目のポストでは、レイリー領域(Rayleigh Length)の1×10^5倍を使用しています。つまり、ビームウェストから十分に遠い位置でのビームサイズになります。
レンズデータエディタとメリットファンクションを駆使して、Mスクエアを出力するプロセスを進んでいきます。光ラーニングでは、この部分を図で表現してみます。
- 解析したいビームと、そのビームのガイドになるパイロットビームがあります。
- パイロットビームのビームウェストの位置に、解析したいビームを伝搬させます。ここで、解析したいビームのビームサイズを計算し、これをWx(0)にします。
- パイロットビームのレイリー距離を計算し、その距離に大きな値(1×10^5)を乗算します。
- 解析したいビームをパイロットビームのウェスト位置から3.で求めた距離だけ伝搬させ、そこでビームサイズを計算します。これをWx(z→∞)にします。
- 上の式から、Mスクエアを計算します。
上のプロセスから、Mスクエアは”ビームウェスト位置のビーム径”と”遠視野でのビーム径”の積(を含んだ係数)であることが分かりましたが、これはどういう意味でしょうか。
近視野でのビーム径はそのビームがどのくらい絞ることができるかを検証しており、遠視野でのビーム径はそのビームがどのくらい発散しているかを検証しています。集光したときの空間分布がガウスビームの何倍か、伝搬したときの角度分布がガウスビームの何倍か、それらを乗算します。つまり、空間と角度両方の特性を加味してビーム品質として計算しています。
Mスクエアが1の時は、ガウスビームと同じサイズまで集光できるし、ガウスビームと同じ角度までしか発散しない、と考えられます。パイロットビームが多少ズレていて空間的な評価に誤差があったとしても、遠方での角度的な評価によってMスクエアの結果は妥当な方向に調整されます。
Mスクエアの定義
最後に、他の参考書やリンクにも説明があるMスクエアの定義について簡単に触れます。詳細な説明については、Siegmanの参考文献[1]を参照してください。
なお、応用物理学会のウェブページから、2000年の記事ですが、レーザ品質としてのMスクエアに関する全体的な知識を得ることもできます [2][3]。
Mスクエアはレーザビームの品質を示す指標としてよく使われる物理量です。評価の基準は理想的なガウスビームでMスクエア=1.0、これが最小値です。ガウスビームから離れるほどMスクエアは大きくなり、一言でいえばビームが絞りにくくなります。
この数式を見ると、ビーム直径(d0)と発散角(Θ)の積になっています。OpticStudioの慣例と違うところで、直径と発散全角になっているので注意します。遠方でのビーム径はθzとおくと、OpticStudioのヘルプファイルの式から参考文献[1]で示された数式に変形することができます。
近軸ガウシアンビームにもあるMスクエアはまたの機会に
OpticStudioの解析機能に、近軸ガウシアンビームという機能があります。この機能は、光学系をガウスビームが伝搬するときに各面におけるビーム径を計算する機能になります。この解析機能の入力パラメータに「Mスクエア」が入力できます。もしかしたら、このパラメータがあることでPOPでもMスクエアが入力できるのでは?という誤解が生まれているかもしれません。
この機能はPOPとは違って詳細なビームプロファイルを取り扱うものではないので、入力パラメータとして使えます。近軸ガウシアンビームのMスクエアパラメータについては、筆者も勉強したいと思います。光ラーニングで取り扱えるレベルになりましたら、ページを作成します。
まとめ
このページでは、Zemaxコミュニティの中からMスクエアに関するいくつかのポストを取り上げました。ビーム品質は2つのビーム径から計算されており、評価面におけるビームプロファイルだけでは決まらないことがよく理解できました。
参考文献
[1] A. E. Siegman, “New developments in laser resonators”, Proc. SPIE Vol. 1224, p2 (1990).
[2] 笠松, 光学工房 – レーザービームの品質って何?-M2の定義-, 応用物理学会 フォトニクス分科会 光学 第29巻第12号 (2000): https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/29-11-kobo.pdf
[3] 笠松, 光学工房 – レーザービームの品質って何?-M2の測定と評価-, 応用物理学会 フォトニクス分科会 光学 第29巻第11号 (2000): https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/29-12-kobo.pdf
コメント
Mスクエアについて理解が浅かったので大変勉強になりました。ZOSでの計算方法もわかって良かったです。
コメントありがとうございます。Mスクエアがパイロットビームに依存するのであれば、面のプロパティの設定にも注意が必要かもしれません。取り扱いの注意点について、引き続き研究したいと思います。