[117] 物理光学伝搬と光線追跡の特徴比較_POP(2)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、過去に行われたZemaxのウェビナーと技術記事から、レーザシミュレーション(特にガウスビーム)に使用する機能について説明します。

結論

  • ガウスビームは様々なシミュレーション方法があり、大きくは光線ベースでモデル化する方法とガウスビームとしてモデル化する方法があります。
  • 光線ベースでモデル化する場合は、レイリー領域の内側の場合は平行光線として、レイリー領域の外側の場合は点光源からの発散光線とみなせます。
  • 物理光学伝搬(POP)は最も高精度にレーザビームのシミュレーションができますが、まずは光線ベースのモデル化を試すことを推奨します。

このページの使い方

このページでは、2015年にZemaxが実施したレーザビームのシミュレーションに関するウェビナーをまとめます。このウェビナーは、Simulating lasers – webinar (レーザシミュレーション) という技術記事で視聴できます。サンプルファイルやパワーポイント資料もダウンロードできるので、OpticStudioを用いたレーザシミュレーションの基本を学習するのに優れたコンテンツです。英語なのが難点と言えば難点でしょうか。

また、このウェビナーの内容を技術記事で文書化、さらに日本語されたのが以下の3つのリンクです。

OpticStudio でビーム伝搬をモデル化する方法: 第 1 部 – ガウス ビーム理論と光線ベースのアプローチ(Zemax技術記事)

OpticStudio でレーザー ビームの伝搬をモデル化する方法 :第 2 部 – 近軸ガウシアン ビーム ツールによるガウス ビームのモデル化(Zemax技術記事)

OpticStudio でレーザー ビームの伝搬をモデル化する方法 : 第 3 部 – 物理光学伝搬によるガウス ビームのモデル化(Zemax技術記事)

これらウェビナーと技術記事、ついでに本ページがOpticStudioでのガウスビーム解析の理解に役立てば幸いです。

OpticStudioでガウスビームをモデル化する5つの方法

シーケンシャルモード(純粋な光線)

OpticStudioシーケンシャルモードのシステムエクスプローラ、アパチャーの設定でガウスビームを設定できます。

物体面の位置を無限遠に置くことで光学系にコリメートビームが入射する状況を設定でき、有限距離に置くことで点(微小)光源から発散するビームが入射する状況を設定できます。光学系に入射するガウスビームを平行光線でモデル化するか、発散光線でモデル化するかの判断は、解析したいビームがレイリー領域の内側か、外側化でおおむね決定できます。ただ、あくまで参考程度と考えて、妥当な設定かどうかは慎重に判断します。

図 117-1 ガウスビームを光線ベースでモデル化するときの1つの指標、レイリー領域。

ガウスビームをモデル化する上でもう1つ重要なのは、入射瞳内の照度分布をガウス分布する方法です。具体的な方法については、以下2つのページを参照してください。

(1) 非点隔差なし_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (1) 。ビネッティングファクタで楕円形状の発散ビームを設定する方法を紹介しています。

図 117-2 ビネッティングファクタによる楕円形状ビームの設定

(2) 1/e2半径以上のビーム_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (2)。入射瞳内を1/e2半径以上のガウス分布で満たすため、各種パラメータの計算方法を紹介しています。

図 117-3 アポダイゼーションファクタを用いた幅が広いガウスビームの設定方法

光線ベースのガウスビームは、実際のガウスビームとは本質的に異なります。例えば、コリメートビームをモデル化する場合、光線は常に直進するのに対して、ガウスビームは回折によって伝搬中にビーム径が変化します。しかし、シミュレーションを行う際は、その差分が解析上重要かどうかを判断し、無視できるなら光線ベースを採用します。

光線ベースでビームをモデル化する大きなメリットの1つは、視覚的・直観的にビームの状態を理解できることです。集光している位置、光学部品を通過しているときのビームサイズや分布、アパチャーと視野による初期ビームの設定など、レイアウト図やフットプリントダイアグラムといった解析機能と対話的に設計を進められます。

光学系の大きさに対して、光源が十分小さい≒点光源とみなせるときは、光線ベースで十分に確からしい解析が行えます。幾何光学とシーケンシャル_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (1) も参照してください。

最終的には、以下で紹介するガウスビーム解析での判断を下すにせよ、光線ベースのモデル化はぜひ行いましょう。ベースの考え方が異なるため光線ベースとガウスビーム解析の結果は厳密には一致しませんが、光学系を進んでいるときの大まかな傾向は一致するので、光線ベースの視覚的な情報でガウスビーム解析の設定の妥当性が検証できます。

上で紹介した技術記事では触れられていませんが、集光ビームのスポット解析に限れば、回折PSFも十分な確からしさを持っている場合があります。PSFについては、ホイヘンスPSFの理解_Zemaxコミュニティ注目トピック (7) を参照してください。

シーケンシャルモード(近軸ガウシアンビーム)

近軸ガウシアンビーム(Paraxial Gaussian Beam)機能は、回転対称のガウスビームのサイズ、発散角(ラジアン単位)、ビームウェストの大きさと位置、レイリー領域を面ごとに出力する機能です。結果はテキストのみで返ってくるため、ビームの状態を視覚的に確認することはできません。

軸上であること、近軸領域での収差が小さいこと、アパチャーを無視することなど、使用上の制限はありますが、光学系の中心を通過する一般的なレーザ光学系の解析に有用です。

図 117-4 近軸ガウシアンビームの設定画面。出力はテキストのみだが、少ない入力パラメータでガウスビーム径を即座に確認できる。

入力ビームのパラメータとして、Mスクエアファクタがあります。一般的に、Mスクエアは入力ビームの分布を特定することはできませんが、ビーム径と発散角が理想的なガウスビームの何倍になるかを示します。近軸ガウシアンビームは、ビームの詳細な分布を定義する機能ではないので、このパラメータを採用できます。Mスクエアについては、M2/Mスクエア(エムスクエア)ってなに?_POP (1) を参照してください。

シーケンシャルモード(スキューガウシアンビーム)

スキューガウシアンビーム(Skew Gaussian Beam)機能は、近軸ガウシアンビームと似ていますが、軸外視野点を選択できるのが特徴のガウスビーム解析機能です。近軸ガウシアンビームと同様、結果はテキストのみで返ってきます。

ここでのスキューとは”斜め”を意味しており、対称光学系であることや軸上に限定されません。近軸ガウシアンビームとの違いとして、XY方向ごとのビームサイズ設定、軸外視野の選択、ビームの開始面の選択が可能です。逆に、Mスクエアを定義するオプションがないため、ビーム品質を考慮した解析はできません。

図 117-5 スキューガウシアンビーム解析の設定画面。軸外の視野を選択できる。

シーケンシャルモード(物理光学伝搬(POP))

POPは、OpticStudioで行うレーザビーム解析の最終手段です。上で紹介した機能ではできない、高次のマルチモードビームや、各面で与えられる波面への影響を詳細に解析できます。

図 117-6 POPは各面でのビームの強度、位相が確認でき、アパチャーの効果も考慮される。

その反面、ヘルプファイルにも「物理光学伝搬は複雑であるため、この機能を使用する前に該当のセクションを読んで理解しておくことをお勧めします。」と注意書きがあります。なお、筆者個人の意見として、セクションをざっと読んでPOPを理解するのは厳しくて、仮に理論を理解できても、実用におけるノウハウを獲得するのは容易ではありません(泣)。

POPは、OpticStudioが基本とする光線(主に主光線)をガイドのように使用しながらも、解析自体は波面伝搬によって各面でのビームプロファイルを計算します。入射瞳を満たすたくさんの光線を追跡するようにビームの電場を離散的にサンプリングする点が、幾何光学的アプローチと似ています。一方で、各光線が独立して追跡される光線追跡とは異なり、各サンプリング点の電場同士がコヒーレントに重ね合されます。

POPの取り扱いが難しい理由は、ヘルプファイルの使用上のヒントにも記載されている通り、「この機能で優れた正確な結果を得るには、指定のサンプリング、幅、面固有の設定(面のプロパティでの物理光学の設定)で実験を繰り返す必要があります。」の1文に尽きます。すべての解析機能に言えることですが、出力結果の妥当性はユーザが設定した計算条件に依存しており、POPはその傾向が特に顕著です。特に厄介なのは、最終面の解析結果だけを見ると正しく計算できているように見えるのに、途中の面から計算が妥当に行えていなくて、実は結果は正しくない、というシチュエーションが頻発することです。

図 117-7 POPの設定箇所は非常に多い。POPウィンドウの設定、さらに面ごとのプロファイルをすべてチェックする必要がある。

筆者自身、何度もPOPには助けられながらも、そのたびに付き合い方に苦戦しており、今でも使うのに二の足を踏んでしまいます。半分愚痴のようになってしまいましたが、もっと勉強して光ラーニングでも取り上げられるように成長したいと思います。

ノンシーケンシャルモード(光源(ダイオード))

ノンシーケンシャルモードは(ほぼ)完全な光線ベースの解析ですが、デフォルトの光源オブジェクトでガウスビームをモデル化できます。

使用する光源オブジェクトは、光源(ダイオード)です。この光源オブジェクトは、シーケンシャルモードよりも多彩な入力パラメータが用意されています。具体的には、発光エリアである近視野の空間分布、そして遠視野の角度分布をスーパーガウス分布で設定できます。詳細については、光源(ダイオード)の角度分布_ノンシーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (1)光源(ダイオード)の空間分布_ノンシーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (2) を参照してください。

図 117-8 ノンシーケンシャルモードで使用できる光源(ダイオード)。赤線のビームプロファイルの変化はイメージなので注意。

光線ベースとガウスビーム機能の特性と使い分け

ガウスビームを設定する方法として、5つの方法とその特徴を紹介しました。技術記事を参考に、シーケンシャルモードでよく使う、光線ベース、近軸ガウシアンビーム、POPについて、使用する機能の判断が必要な4つのシチュエーションをまとめました。

逆に言えば、この4つのシチュエーションに該当しないのであれば、機能の頑強性も含めて光線ベースの解析を使用した方が所望の結果に到達できます

図 117-9 ガウスビームのモデル化方法と信頼性が低下するシチュエーションの対応表。

まとめ

このページでは、Zemaxが開催した過去のウェビナーと、それをまとめた技術記事をまとめました。レーザビーム、特にガウスビームを解析する方法にはそれぞれ特徴があります。最終手段のPOPに手を出す前にできるだけ光線追跡を活用し、明確な意図をもってPOPに取り組んでいきたいと思いました。

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