[113] 絞り面半径による定義 (Float By Stop Size)って何?_Zemaxコミュニティ注目トピック (24)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、Zemaxコミュニティで注目されているトピックから、シーケンシャルモードのシステムエクスローラの一番上にあるアパチャータブにある、”絞り面半径による定義”について取り上げます。

Zemaxコミュニティについては、こちらのページ で概略を説明しています。

結論

  • 絞り面の半径を設計者が決めることで、マージナル光線=光学系に入射する光の大きさを定義する選択肢です。
  • “絞り面半径による定義”を選択すると、レンズデータエディタの絞り面のクリア半径が入力セルになるので、システムエクスプローラに入力セルは現れません。
  • 絞り面のクリア半径によって、絞り面と共役関係にある入射瞳の大きさが決まり、入射瞳の端をめがけてマージナル光線が出射されます。

このページの使い方

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。

興味を持ったトピックに質問やコメントをしてみると、世界のOpticStudioユーザやZemaxエンジニアからの回答があるかもしれません。

“絞り面半径による定義”は何をしている?

トピックへのリンク: 絞り面半径による定義(Float By Stop Size)の意味 What does “Float By Stop Size” mean?

シーケンシャルモードのシステムエクスプローラの一番上にあるアパチャータブで、アパチャータイプが選択できます。このトピックでの質問は、①”絞り面半径による定義(Folat By Stop Size)”が何をしているのか?、②これを選択すると数値を入力するボックスがないのはなぜか?の2つです。

光ラーニングでは、アパチャー(システムエクスプローラ)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (1) にてアパチャーの役割と、各選択肢の簡単な説明をしました。システムエクスプローラのアパチャー設定は、光軸視野におけるマージナル光線を決定する設定です。そして、OpticStudioにはマージナル光線を決定する方法が6つ用意されており、その中の1つが”絞り面半径による定義”になります。

オプション4: 絞り面半径による定義

物理的な絞りの径を決めてしまう、ある意味ではもっとも直接的なマージナル光線の決定方法です。絞り径を決めれば、その前にある光学系によって入射瞳径が決まって、マージナル光線が決まります。図24-5の③で赤矢印の長さを指定します。

アパチャー(システムエクスプローラ)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (1)
図 113-1 システムエクスプローラのアパチャーは、マージナル光線を定義するためのオプション

“絞り面半径による定義”のよくある使い方

一般的なカメラレンズのような設計では、まずは入射瞳径やFナンバーといった光学仕様を使って設計を進めます。このときは絞り面の大きさはフリーにしておきます。このとき、実絞りを光学系のどこに配置するか、どのくらいの大きさになるか、これらは設計要素であり、設計者が選択できます。

ある程度設計が固まってきた段階で、アパチャータイプを絞り面半径による定義に切り替えて、光学性能を検証します。物理的な絞りの大きさを調整してレンズの明るさを変える場合は、この方法が現実の光学系を最も確からしく表現します。奥深い光学設計には、他にも様々な使い道があると思います。

また、レイエイミングや、ツールを使って光学系を反転する場合は、アパチャータイプを”絞り面半径による定義”にすることでOpticStudioの動作が安定します。レイエイミングに対する絞り面半径による定義の効用については、近軸 vs 実光線_レイエイミングの使い方 (3) を参照してください。

日本語訳は英語よりも直観的な表現になっている

Flat By Stop Sizeは英語UIで、これに対する日本語訳が”絞り面半径による定義”となっています。Floatというのが、日本人にとって馴染みが薄いように感じます。ここでは「浮かんでいる」とか「変動する」といった意味になり、直訳では「絞りサイズによって変動」になります。

Size(サイズ・大きさ)という表現は曖昧ですし、アパチャーサイズを”設定”するのに”変動”するという表現となっています。下で紹介するMarkさんのコメントにも同感できそうです。

日本語UIの”絞り面半径による定義”と対比すると、Stop Sizeを”絞り面半径”、Floatを”定義”に翻訳したようです。大きさが”半径”であると特定されていますし、”定義”には一意に決定する意味合いを感じます(筆者個人の感想)。日本語UIで機能の意味を理解していたので、英語UIを読んでも特に違和感を感じていなかったのかもしれません。

教科書的な説明

質問者の自己回答になっているベストアンサーで、Flat By Stop Sizeの教科書的な説明が確認できます。

”絞り面半径による定義”は、光学系のアパチャー(マージナル光線=光学系に入射するビームの太さ)を定義する1つの方法です。つまり、レンズデータエディタで設定されるクリア半径(Clear Semi-Diamter)でユーザが入力した絞り面の半径によって、光学系のアパチャーサイズが決まります。

このオプションは、光学系のどこかにあらかじめ決められた大きさの物理的なアパチャーが設置される光学系でとても有用です。入射瞳直径、像空間F/#、物空間NA、絞り面半径はすべて近軸計算で関連しています。そのため、これらのうち1つの数値を指定することは、光学系のアパチャーを指定することになります

絞り半径からマージナル光線を決定するプロセス

絞り面半径による定義が軸上視野のマージナル光線を決めるプロセスを詳しく説明します。

アパチャータイプを”絞り面半径による定義”にすると、レンズデータエディタの”絞り面”のクリア半径のソルブが”固定”に自動設定されます。このクリア半径の大きさが、光学系に組み込まれた「物理的なアパチャー、ハードアパチャー」であるとみなされます。

物理的なアパチャーとしての絞りが決定されると、絞り面よりも前の光学面によって絞り面の結像位置と結像倍率が計算されます。この結像関係の計算は、近軸計算で行われます。

  • 絞り面より前の光学系によって結像された絞り面の像が、光学系の入射瞳でした。絞り、入射瞳、射出瞳_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 (1) も参照してください。
  • 入射瞳の位置が、物体面から見たときの光学系の実効的な入口の位置になります。
  • 入射瞳の結像倍率で決まる大きさが、物体面から見たときの光学系の実効的な入口の大きさです。
  • マージナル光線は、光軸上の物体面の1点から、入射瞳の端に向けて出射されます。

このように、絞り面の大きさから入射瞳を決定することで、マージナル光線が決まりました。

アパチャータイプの他のオプションも、それによって入射瞳の位置と大きさを求め、マージナル光線を決定しています。

図 113-2 アパチャータイプ “絞り面半径による定義”によるマージナル光線の決定プロセス。

追加質問① 混同しやすい用語、半径(Semi diameter)と曲率半径(Radius)

このトピックには、コメントで追加の質問がいくつかありました。まずは、OpticStudioに限らず、光学でも混同しやすい半径曲率半径です。Radiusは多くの場合、半径の意味で登場します。円の面積 2πr2のrがradiusのrです。

しかし、OpticStudioでは半径という意味でradiusは使わず、Semi diameter=直径の半分という表現を用います。そして、radiusは曲率半径を意味します。例外はありまして、例えば正規化半径です。正規化半径については、正規化半径(Normalization Radius)ってなに? を参照してください。他にもあるかもしれません。

また、OpticStudioでは大きさや角度を設定するとき、例外を除いて半値で設定します。そのため、Float By Stop SizeのSizeもレンズデータエディタのクリア”半径”で設定します。同じアパチャーの中に例外があり、入射瞳径は全幅で定義します。このオプションを選択しているとき、入射瞳径は直径で入力し、その数値を半分にして、レンズデータエディタの開口の大きさがクリア半径として設定されます。

図 113-3 半径と曲率半径は別のもなので注意しましょう。正規化半径のような例外もあるので、これも注意です。

追加質問② レーザビームのサイズを指定するときの”絞り面半径による定義”

追加の質問の2つ目が、シーケンシャルモードでレーザを定義したいときのアパチャー設定についてでした。具体的には、1. 決まった直径を持つレーザビームが入射する場合、どのアパチャータイプを設定すべき? 2. レーザ全体が光学系を通過するようにするにはどう設定すればよい? でした。

1.の質問は、光学系の状況に依存します。上の説明の通り、絞り面より前に光学面があると、それによってマージナル光線=光学系に入射するビームの大きさが変わるので、決まったビームサイズを絞り面半径から入力できません。この時は、”入射瞳径”が有力候補になるでしょうか。なお、絞り面の前に光学面がなければ、絞り面=入射瞳となるので、絞り面のクリア半径がビームの幅になります。

2.の質問は、アパチャータイプの話ではなくて、アポダイゼーションの話になります。アポダイゼーションによって、光学系を通過するレーザビームを十分カバーする状況を設定する方法は、1/e2半径以上のビーム_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (2) を参照してください。

図 113-4 ガウスビームは裾野を引いているので、完全にエネルギーが通過する設定はできない。

Markさんからのコメント

元Zemax CEOのMarkさんがこのトピックにコメントを残しており、面白かったので紹介します。”絞り面半径による定義(Float By Stop Size)”は分かりにくく、あまり意味がない、とのことです(笑)。代替案も提示されていて、英語で”Physical Size of Stop Surface”です。日本語だと”絞り面の物理的大きさ”になるでしょうか。確かに、こちらの方が今の英語UIの表現より分かりやすいかも。印象としては、日本語UIの”絞り面半径による定義”に近づいているようです。

まとめ

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿された「”絞り面半径による定義”の意味」を取り上げました。特に光学に初めて触れる人にとっては、英語UIのFloat By Stop Sizeの方が難しく、日本語UIが直観的に理解しやすいかもしれません。レンズデータエディタの、絞り面のクリア半径にユーザが入力した数値から、近軸計算によって入射瞳径が決まり、それを満たすようにマージナル光線が生成されます。

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