こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?
光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、OpticStudioの解析機能の1つ、全視野収差(Full-Field Aberration)が、光学系の収差をゼルニケ多項式に分解するプロセスについて説明します。
結論
- 全視野収差は、①サンプリングした視野点ごとに、②波面収差をゼルニケ多項式(標準のみ)に分解し、③各ゼルニケ成分の大きさの視野分布を表示する機能です。
- 全視野収差では、デフォーカスの大きさ、1次非点収差と1次コマ収差の大きさと方向を可視化してくれます。
- 全視野収差は、強い非球面や自由曲面を使用した光学系のような、少ない視野情報から視野全体の光学性能を解析するのが困難な場合、光学性能の劣化要因(場所と収差の種類)を発見するのに便利です。
このページの使い方
このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、Which tools to use when working on a Head-up-Display (HUD設計に使用する機能) です。今更気づきましたが、この記事の日本語版がリリースされていました!ヘッドアップ ディスプレイの作業で使用するツールの選択 になります。この記事では、OpticStudioでHUDを設計・解析を行う上で有用な機能一式を紹介しています。
このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。この記事は5番目です。4番目の記事は、アフォーカル像空間ってなに?_HUD (Head Up Display) (4) です。
光ラーニングでの取り上げたゼルニケ関連の記事
(4)の記事では、フロントガラスの収差を解析する設定として、アフォーカル像空間を紹介しました。今回の記事を書くにあたり、全視野収差で使用されるゼルニケ多項式関連の記事を投稿していました。ゼルニケ標準多項式、ゼルニケフリンジ多項式、ゼルニケ係数機能によるゼルニケ多項式の分解などです。
今回紹介する全視野収差では、ゼルニケ標準(Zernike Standard)サグ・位相面の定義式_ゼルニケ多項式 (1) と ゼルニケ(標準・フリンジ・環状)係数機能での分解方法_ゼルニケ多項式 (3) の内容が参考になります。
フロントガラスの収差をゼルニケ多項式で分解
収差を解析する理由
今回取り上げているHUDシステムの光学系において、フロントガラスは光学性能低下の主要因になります。フロントガラスが光学系に与える収差を、HUDシステム内の自由曲面で補正することが設計の目的になります。この先、自由曲面の形状を最適化する前に、フロントガラスが与える収差の特性を理解しておくことは、最適化を効率的に進めるヒントになります。
全視野収差の特徴
全視野収差の機能は、3つの特徴があります。①物体面を矩形グリッドでサンプリングして視野点群を設定できる、②各視野点における波面収差をゼルニケ標準多項式で分解できる、③各ゼルニケ多項式の成分の大きさ(と、非点とコマの場合は方向)を視野分布として表示できる、です。
②の機能は、ゼルニケ(標準・フリンジ・環状)係数と同じです。この機能は、視野と波長を指定て得られる波面収差を、ゼルニケ多項式に分解して、各ゼルニケ成分の大きさをテキスト形式で出力する機能です。
全視野収差の”全視野”に対応するのが特徴①で、ゼルニケ標準多項式分解機能を、サンプリングした視野全体にわたって一気に行えます。
なお、ゼルニケ係数機能では、まず視野データエディタで確認したい視野点を設定して、設定の視野オプションで確認したい視野点を選択する必要がありました。視野全体で各ゼルニケ成分がどう分布しているかを把握するのに、これはとても非効率です。
視野ごとのゼルニケ多項式での分解
全視野収差のベーシックな使い方としては、光学系を通過した後の波面収差を視野全体にわたって分解することで、光学性能の劣化要因を把握することです。今回のHUDシステムの技術記事では、光学系の中で光学パワーを持つ部品をフロントガラスのみにすることで、フロントガラスそのものが持つ収差成分を解析しています。解析対象は、フロントガラスのうちHUDシステムの光が反射する部分のみです。
全視野収差では、サンプリングした視野点ごとに、ゼルニケ分解を行います。イメージは下図の通りです。視野ごとに取得された波面収差がゼルニケ多項式に分解され、ゼルニケ係数の大きさが可視化されます。図114-2の全視野収差のウィンドウで図で示されている領域はフロントガラス面内を表しているように勘違いしやすいですが、そうではなくて、物体面内の視野の形状を表している点に注意してください。
また、基本的なことですが、視野が異なると波面収差が変化するので、ゼルニケ係数の結果も異なるものになり、全視野収差はこのことを明確に表しています。
余談
How to model a black-box optical system using Zernike coefficients (Zemax技術記事、英語) には、光学性能をゼルニケ位相面に変換することで、ブラックボックスレンズのような設計情報を秘匿したデータ共有方法が紹介されていました。この記事にも、「特定の視野と波長に対する光学性能を記録したものであって、別の視野や波長における性能に変換することはできない。」と述べられています。
フロントガラスの収差分析を踏まえての最適化プロセス(詳細は割愛)
HUDの技術記事ではこの後、上記のフロントガラスの全視野収差の解析結果を踏まえて、自由曲面の最適化を進めていきます。
フロントガラスによって与えられる収差は、デフォーカス、非点収差、コマ収差で、特に非点収差の補正がカギになります。
自由曲面ミラーの面タイプをゼルニケ標準サグに設定し、曲率半径と、ゼルニケ係数を変数にしています。ゼルニケ項については、デフォーカスに関するZ4、1次非点収差に関するZ5とZ6、コマ収差に関するZ7とZ8(1次コマ)、Z9とZ10(トレフォイル、楕円コマ)、球面収差のZ11が変数に設定されていました。つまりZ4からZ11まですべて、ということです。
所望の光学性能を追求しながら、HUDシステムを所定のサイズに収めるようにミラー間距離や角度を調整したり、最適化のアルゴリズムを変えてみたり、様々なノウハウがあると思います。OpticStudioの総裁関しては、これまで光ラーニングが取り扱った記事が少しでも参考になっていれば幸いです。
まとめ
ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、HUD設計に使用する機能から全視野収差を取り上げ、視野ごとの波面収差をゼルニケ多項式で分解する機能であることを説明しました。
どうやら、この機能に対応する最適化オペランドは用意されていないようです。類似するオペランドとしてZERNがありますが、視野を特定する必要があり、視野全体にわたっての係数は出力されません。とはいえ、全視野を計算するとなると、試行1回ごとに計算するには計算量が大きすぎるかもしれません。
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