[107] アフォーカル像空間ってなに?_HUD (Head Up Display) (4)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、システムエクスプローラのオプションの1つ、コリメート光学系を設定するときなどに使用する「アフォーカル像空間」について説明します。

結論

  • アフォーカル像空間は、コリメート系(像面に平行光が入射する光学系)の解析、設計を行うときの推奨オプションです。システムエクスプローラ、アパチャータブにあります。
  • アフォーカル像空間が有効の時、OpticStudioの状態をアフォーカルモードと呼びます。デフォルトの無効の時はフォーカルモードと呼びます。
  • アフォーカルモードでは、解析機能の単位系が長さ空間から角度空間に自動的に切り替わります。例えば、横収差は基準光線に対する角度のズレになります。縦収差は特殊パターンで、ディオプタ(メートルの逆数)で計算されます。OPD(光路差)の計算で基準となる参照面が平面になります。

このページの使い方

このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、Which tools to use when working on a Head-up-Display (HUD設計に使用する機能)アフォーカル光学系の設計方法 です。1つ目の記事は、OpticStudioでHUDを設計・解析を行う上で有用な機能一式を紹介しています。2つ目の記事は、アフォーカル像空間の概念と使い方を解説しています。

このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。この記事は4番目です。3番目の記事は、座標ブレークを使った初期設計の部品配置_HUD (Head Up Display) (3) です。

フロントガラス(ほぼ平面の光学部品)による収差の解析

前のページで紹介したHUD光学系は、フロントガラス以外は平面ミラーで構成されているので、収差の発生源はフロントガラスのみです。フロントガラス単体の収差を評価するには、平行光を入射させて、反射後の平行光の乱れ具合を確認する方法があります。

理想的な平面ミラーの場合、平行光は反射後も平行光なので、光線群の角度的なばらつきはゼロです。一方でミラーが曲面の場合、反射光には角度的なばらつきが発生します。

理想的な平行光は、理想的なレンズ(近軸レンズ)で集光すると、幾何光学的には理想的な点像になります。しかし、角度的なばらつきを持った略平行光を理想的なレンズで集光しても1点にならず、空間的に有限のサイズを持ちます。これがフロントガラスで発生する収差です。

図 107-1 フロントガラスで平行光線を反射させ、その光線の角度的なばらつき(一番右のプロット)。

アフォーカル像空間 (Afocal Image Space)

上記のような、理想的な平行光からの角度的なズレ具合の解析を行うときに使用するのが、システムエクスプローラにある「アフォーカル像空間」オプションです。システムエクスプローラ、アパチャータブにあります。

図 107-2 アフォーカル像空間オプションの位置。アパチャーというよりは「上級」に近いかもしれない。

アパチャー(システムエクスプローラ)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (1) では、アパチャータブはマージナル光線を定義することで光学系に入射する光の大きさを規定する、と説明しました。しかし、アフォーカル像空間の機能はこれに含まれないように思われます。このオプションの有無でマージナル光線は変化しないからです。あくまで筆者個人の感想ですが。。。

アフォーカルモードとフォーカルモード

アフォーカル像空間を有効にした時、OpticStudioの解析機能の挙動が変化します。この状態をアフォーカルモードと呼び、光学系から出射する光が平行光に近い、もしくはそうなってほしいことを想定します。つまり、OpticStudioのアフォーカル≒光学系から出射する光が平行光(コリメートされている)と考えられます。

それに対して、デフォルトのアフォーカル像空間が無効の状態をフォーカルモードと呼びます。これは、光学系から出射する光が1点に集まる、もしくはそうなってほしいことを想定しています。

アフォーカル光学系 (Afocal Systems)

アフォーカルの意味ついて少し深堀します。インターネットで検索していると、SPIEの公開ページでアフォーカル光学系の定義が説明されていました。

An afocal system is formed by the combination of two focal systems. The rear focal point of the first system is coincident with the front focal point of the second system. Rays parallel to the axis in object space are conjugate to rays parallel to the axis in image space. Common afocal systems are telescopes, binoculars and beam expanders.

アフォーカル光学系は2つのフォーカル光学系の組み合わせ構成されます。前段の光学系の後側焦点と後段の光学系の前側焦点を一致させます。物空間で光軸に平行な光線は、像側で光軸に平行な光線と共役関係になります。一般的なアフォーカル光学系として、望遠鏡、双眼鏡、ビームエクスパンダーがあります。

https://spie.org/publications/fg01_p18_afocal_systems?SSO=1
図 107-2 SPIEの定義するアフォーカル光学系の概念図。平行光が平行光で出射していく。

Zemaxの技術記事も、このSPIEの定義を参照しているようです。記事には「物体と像の両方が無限遠で共役関係になる光学系をアフォーカル光学系と定義しています」とあります。物体と像が無限遠にあるとは、光学系に入射する光線も光学系から出射する光線も平行になっている状況を指します。

光学系に平行光が入ってくる状況は、物体(点光源)が無限遠にあり、光学系に到来する光の波面が平面になった状態です。その意味で、物体距離が無限遠の場合は、アフォーカル物空間とも言えます。詳細については、結像光学系_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (2) を参照してください。

注意点は、アフォーカル光学系は必ずしもビームエキスパンダーのような平行光が入って平行光で出ていく光学系だけを指していないことです。アフォーカル光学系であっても、物体が有限距離に設置すれば、像も有限距離にできます[1]。

図 107-3 光学系から平行光が出射していなくても、定義を満たしていればアフォーカル光学系に相違ない。

アフォーカル像空間 = 少なくとも像空間に平行光が出射する状態を想定

アフォーカル像空間はZemax OpticStudioのオリジナル用語になります。アフォーカル光学系に平行光が入ったら平行光が出射しますが、像空間だけでも平行光になる状況を「像空間でアフォーカル(コリメートされたビームが出射する状況)」と表現しているようです。

例えば、点光源から出射した発散光を1枚のレンズで平行光に変換するコリメータは、フォーカル系を2つ備えていないし、無限遠の物体と無限遠の像を共役関係にできないので、SPIEが定義するアフォーカル光学系ではありません。しかし、像空間に平行光が出射することを想定した光学系なので、OpticStudioでこの光学系を設計する場合、アフォーカル像空間オプションが有益です。

図 107-4 単純なコリメート系。SPIEの定義するアフォーカル光学系ではないが、アフォーカル像空間といえる。

取り扱う単位系の違い

通常のフォーカルモードと、アフォーカル像空間を有効にしたアフォーカルモードでは、解析機能で使用される単位が自動的に変化します。ヘルプファイルと技術記事に紹介されている表になりますが、ここでも記載します。

解析内容フォーカルモードアフォーカルモード
横収差マイクロメートル (長さ)ミリラジアン (角度、設定可能)
MTF1mmあたりのサイクル(ラインペア)数1ミリラジアンあたりのサイクル数
像面湾曲、縦収差、デフォーカス長さ単位ディオプタ (メートルの逆数)
回折限界エアリーディスク半径1.22 λF/# (長さ)1.22 λ/D (角度、Dは射出瞳直径)
表 107-1 フォーカルモードとアフォーカルモードで自動的に切り替わる定義と単位

単位で見ると、フォーカルモードが長さ単位、アフォーカルモードが角度単位になっています。

もう1つ重要なポイントは、波面収差を計算するときの参照(球)面の違いです。フォーカルモードでは、像面から射出瞳までの距離を半径とした球面が、波面収差を計算するときの基準面になります。それに対して、アフォーカルモードでは参照球面が平面になります。光学系からコリメート光を出射する場合、理想的な波面は平面になるためです。

図 107-5 フォーカルモードの参照球面。文字通り、理想的な球面。
図 107-6 アフォーカルモードの平面な参照波面。光線収差は、実光線の入射角度をミリラジアン単位で出力する。

参照球面の設定は、システムエクスプローラ、上級タブの参照 OPD でいくつかのオプションが用意されています。このオプションについては、光ラーニングでも取り上げたいと思います。参照球面については、波面収差の基準、参照球面_Zemaxコミュニティ注目トピック (6) を参照してください。

平行光を理想レンズで集光する方法もある

アフォーカル像空間を使わなくても、コリメート系を設計する方法はあります。それは、平行光を理想レンズで集光したとき、スポットサイズが最小になるように設計する方法です。上でも少し触れた通り、略平行光での角度的なばらつきは、理想レンズで集光したときの空間的なばらつきに置き換えられます。

ZEMAXのどのタイミングでアフォーカル像空間のオプションが加わったかは記憶にありませんが、筆者は過去に、近軸面を利用してフォーカルモードのままでコリメート系を設定しているファイルを取り扱ったことがあります。

まとめ

ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、HUD設計に使用する機能 と アフォーカル光学系の設計方法 から、システムエクスプローラの「アフォーカル像空間」オプションについて説明しました。光学系から平行光を出射するコリメート系などを設計する場合は、ぜひ積極的に活用してみましょう。

<参考>

[1] 大川、結像素子より大きな空中像を表示する対称光学系の提案、第23回日本バーチャルリアリティ学科う大会論文集 (2018年9月)、https://conference.vrsj.org/ac2018/program2018/pdf/13D-2.pdf

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