光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。 このページでは、光学業界全体で広く活用されているゼルニケ多項式に関連して、Zemax OpticStudioにも搭載されているゼルニケフリンジ多項式について説明します。
結論
- ゼルニケフリンジ面の定義式はアリゾナ大学のページで確認でき、基本的にはゼルニケ標準多項式と同じです。動径方向の次数nと円周方向の周波数mの2つのパラメータによって多項式を計算可能です。
- 多項式の順番jは、nとmを変数としたの関数によって決まり、ゼルニケ標準多項式とは規則が異なります。ゼルニケフリンジ多項式では、ザイデル収差に関連した項が優先的に出現します。
- 筆者の感覚では、光学業界で単に「ゼルニケ」と言われたとき、ゼルニケフリンジを指している場合が多いです。
このページの使い方
ゼルニケ多項式に関する技術情報はインターネット検索でたくさん入手することができます。しかし、OpticStudioに搭載されているゼルニケ面に関する機能と関連付けて理解するのは少し手間です。
前のページ (ゼルニケ標準(Zernike Standard)サグ・位相面の定義式_ゼルニケ多項式 (1)) ではゼルニケ標準面について説明しました。ここでは、参照情報の中ではゼルニケ標準多項式よりも多く見ると思われる、ゼルニケフリンジ多項式について説明します。
ゼルニケフリンジサグ(位相)面の定義式 (Zernike Fringe)
ゼルニケフリンジサグ面のサグの定義式は、ゼルニケ標準サグ面と同じです。ゼルニケ多項式の項の中身が異なるため、同じパラメータを入力しても得られるサグ形状が異なります。
ゼルニケフリンジ多項式は、参照情報によって符号の付け方や動径方向の多項式の記述が微妙に異なるので、情報源ごとに確認が必要です[1][2][3]。下の式は、[2]から引用していますが、元は Wang, J. Y. and Silva, D. E. “Wave-Front Interpretation with Zernike Polynomials.” Appl. Opt. 19, 1510-1518, 1980. になります。
右上には参考として、ゼルニケ標準多項式の定義式を示しています。ハイライト部分の平方根が差異になります。この平方根は、ゼルニケ多項式の正規化のために加えられています。OpticStudioのヘルプのゼルニケフリンジ係数に「ゼルニケフリンジ多項式は正規直交(orthonormal)ではない」とありますが、厳密には「直交だけど正規ではない」と解釈するのが正しいと思います。
ヘルプファイルのゼルニケ標準多項式とゼルニケフリンジ多項式を比較したとき、ゼルニケ標準多項式にだけ平方根があり、ゼルニケフリンジ多項式はすっきりしているのは、このnに関する平方根の有無に起因します。
ゼルニケフリンジ多項式の順番の決め方
ゼルニケ標準多項式と同様、nとmの組み合わせによって、多項式の順番jが決まります。順番を決める数式は Wikipediaの「ゼルニケ多項式」 にまとまっており、”Fringeによる記法”にて説明されています。ルールが異なるため、図 109-2 の通り順番がずれています。
Fringeによる記法の第3項のsgnについては、例えば 数学の景色様のサイト「sign関数(sgn関数,符号関数)とは何か」 を参照してください。その数の符号を判定する関数で、mが正であれば1、0なら0、負であれば-1になります。
Nollによる記法とFringeによる記法の順番の近いの直観的理解
ゼルニケ標準多項式(Nollによる記法に準拠)とゼルニケフリンジ多項式(Firngeによる記法)の順番のルールを数式的に説明してきましたが、インターネット検索で、2つの規則の違いをより直観的に理解する助けになる資料(アリゾナ大学の資料?) を見つけました。
ゼルニケ標準多項式は、cos項を偶数番目に並べて、sin項を奇数番目に並べます。なので、m=0の項があると、そのあとのm≠0の多項式でcosとsinの順番が入れ替わります。
ゼルニケフリンジ多項式は、順番の増え方が対角になっています。n=4, m=0のZ9が、n=3, m=3, -3に先んじて並んでいる理由がコレです。そして、cos項とsin項がある場合は、cos項を先に並べます。なので、m=0の有無によらず、常にcos項が先に並びます。
2つのゼルニケ面の違い具体例
ゼルニケ標準サグ面とゼルニケフリンジサグ面で、Zernike 5で生成されるサグの違いを確認します。サグ量と形状の両方で結果は一致しません。サグ量について、ゼルニケフリンジサグ面はエッジでのサグ量の最大値が1になります。ゼルニケ標準サグは、多項式の左にくっついている平方根の値(ここでは√6)になります(テキストタブで正確な数値を確認しました)。
ここまで見てきた通り、形状が異なるのは多項式の順番決めのルールが異なるため、サグ量が異なるのは動径方向の関数が異なるためです。
まとめ
ここでは、光学業界で広く活用されているゼルニケ面を取り上げ、前回取り上げたOpticStudioのゼルニケ標準サグと類似している、ゼルニケフリンジサグ・位相面の定義式について説明しました。
ゼルニケ標準多項式とゼルニケフリンジ多項式の違いが少しでもクリアになれば幸いです。ゼルニケ面に遭遇した場合は、自分が見ている面がどのような定義に従って設定されている面か、必ず確認するようにしてください。
<参考>
[1] James C. Wyant, “Applied optics and optical engineering, Vol. XI”, https://wp.optics.arizona.edu/jcwyant/wp-content/uploads/sites/13/2016/08/Zernikes.pdf
[2] 三橋 俊文, “総説 光学入門2 Zernike多項式再入門”, 視覚の科学 第35巻第2号, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpnjvissci/35/2/35_38/_pdf/-char/ja
[3] Wolfram MathWorld, Zernike Polynomial, https://mathworld.wolfram.com/ZernikePolynomial.html
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