光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。 このページでは、OpticStudioに搭載されている3つのゼルニケ多項式のうち、よく使用されている「ゼルニケ標準多項式」と「ゼルニケフリンジ多項式」の違いをまとめ、形状を一覧表にまとめました。
結論
- ゼルニケ標準もゼルニケフリンジも、面を表現するの力としては同等です。OpticStudioの場合は、ゼルニケ標準サグのほうが使用できる項数が多いので、高次まで使用したい場合はゼルニケ標準多項式が第一候補になります。
- ゼルニケフリンジ多項式は、37項の形状を特別な項としてリストに追加しているため、将来的なサポート項数の拡張が難しいと思われます。
- ゼルニケ多項式と聞いた時、それはどの定義式ですか?と確認することが大事です。
このページの使い方
ゼルニケ多項式に関する技術情報はインターネット検索でたくさん入手することができます。しかし、OpticStudioに搭載されているゼルニケ面に関する機能と関連付けて理解するのは少し手間です。
これまで、ゼルニケ標準(Zernike Standard)サグ・位相面の定義式_ゼルニケ多項式 (1) と ゼルニケフリンジ(Zernike Fringe)サグ・位相面の特性_ゼルニケ多項式 (2) ゼルニケ(標準・フリンジ・環状)係数機能での分解方法_ゼルニケ多項式 (3) まで、ゼルニケ多項式について説明してきました。ここでは、ゼルニケ標準とゼルニケフリンジの違いをまとめ、項数に対応する形状を一覧形式でまとめました。新しい情報はありませんが、参照用や比較用として参考になれば幸いです。
Point 1: 動径方向の多項式が違う
ゼルニケ標準とゼルニケフリンジを数式で見たときに気づく違いが、動径方向の多項式です。ゼルニケ標準多項式には、動径多項式の次数nの係数がかかっています。これにより、以下のことが言えます。
Point 1-1: サグの大きさが違う: 同じ形状をしたゼルニケ標準面とゼルニケフリンジ面に、同じ係数を入力しても、サグの大きさが異なります。
Point 1-2: ゼルニケフリンジ多項式は単位円の端でサグが1
Point 1-3: ゼルニケ標準多項式だけが正規化されている: ゼルニケ標準多項式は、正規直交性を持つ多項式系です。ゼルニケフリンジ多項式は、直交しているけど正規化されていない多項式系です。
Point 2: 多項式の順番が違う
ゼルニケ多項式の順番の付け方には、大きく3つの方法があり、それによって現れるサグ形状の順番が異なります。詳細は Wikipedia のページ を参照していただくとして、① OSA/ANSI の方法は直観的に並べやすく、nに対して存在できるmを小さい方から大きい方に順々に並べる方法です。② Nollの方法がゼルニケ標準多項式の並べ方に採用されている並べ方で、③ フリンジの方法がゼルニケフリンジ多項式の並べ方に採用されている並べ方です。②と③の並べ方を直観的に理解するのに有用なのは下図です。
Point 3: OpticStudioではサポートしている項数が違う
OpticStudioに搭載されているゼルニケ標準多項式は231までサポートしていますが、ゼルニケフリンジ多項式は37項までです。筆者個人の感覚的に、光学業界でよく使われているのはゼルニケフリンジ多項式ですが、なぜ項数が制限されているのか疑問を持っていました。
ここで、図112-2で注目してほしいのは、ゼルニケフリンジ(右側)に記載してある、「35項に、2つの高次球面収差項を追加(=37項)した」の一文です。つまり、ゼルニケフリンジ多項式が世に出たときから最大37項だったようです。筆者が確認したところ、③フリンジの方法による並べ方では、36項までは期待通りの形状が出力されますが、37項は特別で、36項の1つ上の次数の球面収差の項が出力されました。下に示す形状一覧を参照してください。
そのため、OpticStudioのゼルニケフリンジ面・位相がサポートする項数を拡張してほしいと思っても、③フリンジの方法における37項の取り扱いが過去の慣例を破ることになるので、実現される可能性は極めて低そうです。
ゼルニケ標準 vs ゼルニケフリンジ比較一覧
最後に、ゼルニケ標準とゼルニケフリンジの項番と形状の一覧を示します。正直、これをまとめることをモチベーションに、追加情報の少ない本ページを作成したと言っていいです。
OpticStudioに限らず、光学ソフトウェアに搭載されているゼルニケ面を使用するうえで、どの項がどの形状に対応しているかがすぐに分からない場合があると思います。確かに、高次まで使って面形状を作成しているときは、1つ1つの多項式の形状は重要とは言えないかもしれません。でも、気になりますよね?確かに、新しいファイルを作成してゼルニケ面の形状を見れば知ることはできますが、そのひと手間に手が出ないときは、こちらの図が参考になりますと幸いです。
左列には、OpticStudioの入力項数番号を示します。形状の下には、「対応する収差名」「エッジにおける最大サグ量」「フリンジ/標準で同じ形状が出現する項番号」を記載しています。
いくつかの注意点があります。
・ ゼルニケ標準多項式には、37項以内であっても、対応するゼルニケフリンジ多項式が存在しない項があります。その場合、Fringe>(38) みたいに、項番がカッコ付けしています。
・ ゼルニケ標準多項式の38項以降では、対応するゼルニケフリンジ多項式が存在する項番のみ (最大79項) を含んだ表としています。気合で231項分の図を作成することも一瞬考えましたが、あきらめてしまいました。
この作業をして、上で見ていた参考文献の記載が示す通り、ゼルニケフリンジ多項式の37番目がゼルニケ標準多項式だと79番目で出現することが分かったときに、少し感動しました。
まとめ
このページでは、これまで取り上げてきたゼルニケ標準多項式とゼルニケフリンジ多項式の違いをまとめ、ゼルニケフリンジ多項式の最大項数である37項まで、ゼルニケ標準多項式との比較表を作成しました。これまで、2つのゼルニケ多項式は一緒じゃないことは知っていたけど、どういう背景があって異なっているか、どう対応しているのか、十分に把握せずに使っていることを思い知りました。
自由曲面の設計や、波面補償技術など、多くの先端技術で活用されているゼルニケ多項式について、少しでも参考となる情報が提供できていれば幸いです。
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