[42] 光路差図(波面収差)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (9)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、OpticStudioシーケンシャルモードでよく使う解析機能、「光路差図」について説明します。

結論

  • 光路差図は、波面収差のXY断面のプロットで、参照球面からの誤差量を示します。
  • 実際の波面が参照球面より「像側にあるとき光路差図はプラス=波面が進んでいる状態」で、「物側にあるとき光路差図はマイナス=波面が遅れている状態」になります。
  • 光路差図を微分すると横収差図になります。どちらも理想的な結像からの差分を示しているという意味で、同じ現象を表現しています。

このページの使い方

このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、 シングレット レンズの設計方法 パート2 です。この記事は、OpticStudioのシーケンシャルモードでシングレットレンズ(単レンズ)を設計するプロセスのうち、光学性能を評価する機能を紹介した入門記事になります。

このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。この記事は9番目です。(8)は 横収差図(光線収差)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) です。

光路差 (Optical Path Difference)

ヘルプファイルの機能説明では、「光路差図では瞳座標の関数として光路差が表示されます。」とあります。また技術記事には、「理想的な光学系であれば、波面は射出瞳上での収差のない球面と一致します。」と書かれていますが、これだけ聞いてもピンとこないかもしれません。光路差図のヘルプファイルも初見ではかなり難しいことが書いてあるように感じます。

出力結果を見ると、光線収差を表す横収差図と同じような構成になっていることが分かります。横軸はPy, Pxになっていて、これは正規化瞳座標です。縦軸はWで、これが光路差です。横収差図については 横収差図(光線収差)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (8)、正規化瞳座標については 正規化(視野, 瞳)座標_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (7) を参照してください。

図 42-1 光路差図。参考の技術記事から引用。ぱっと見は横収差図と同じ構成で、実は機能としてのメッセージも同じ。

ここからは、光路差図が表示している内容や用語について説明します。

波面と光線

まずは用語としての「波面」です。幾何光学は光を光線で表現し、波動光学では光を波で表現します。一言に波面といっても、時と場合によって使われ方が異なります。ここでの波面は、幾何光学の中に波動光学のエッセンスを混ぜたような概念です。このページでは、幾何光学的に追跡される光線の位相をベースにした波面を扱います。その波面は、以下2つの特徴を持っています。

① 波面とは、各光線の位相(振動パターン)の値が等しい点を滑らかにつなげた同位相面のこと。

② 同位相面(波面)は、各光線と直交している。

図 42-2 光線と波面。光学系を通過すると、球面だった波面に歪みが加わる。

OpticStudioのシーケンシャルモードではさらに「波面を形成する光線は1つの点光源から出射している」という条件が暗黙的に付帯する場合がほとんどです。これは、自分の近くにある点光源から出射している光線が形成する波面は、たとえ同位相の波面であっても同時に考慮することはない、という意味です。ここでも、結像光学系は物面上の1点の光が像面上の1点に集光することを目指す、という前提が存在しています。

光線の同位相面をつなげることは、光源からの距離が等しい光線上の点をつなげることなので、点光源から出射する光の波面は球面になります(上図の左側)。ちなみに、無限遠から光学系に入射した平行光も、もともとは1つの点光源から出射した光線で構成されます。ただ、波面の曲率半径が非常に大きく(無限大)なって、光学系に入射する部分の波面を切り取ると平面になります。

ここで言いたいのは、有限距離から球状の波面を入射させる点光源も、無限遠にあって光学系には平面波を入射させる点光源も、どちらも点光源に変わりない、ということです。詳細については、結像光学系_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (2) もご参照ください。

波面収差

光線収差のページでも述べた通り、 結像光学系では、物面上での1点から出射した光線が、像面上で1点の点像に集光される状態を目指します。これは視覚的にも理解しやすいです。実は、光路差図も同じ結像状態を私たちに伝える機能で、評価の道具が「光線」から「波面」に変わっただけです。

「波面」を使うと、結像光学系は次のように言い換えられます。「結像光学系は、物面上での1点から出射した完全な球状(平面を含む)の波面が、光学系の最終面から出射したときに完全な球状になる状態を目指します。しかし、現実の光学系では、完全な球状で出射する理想的な波面は形成できず、いくらかの歪みが残存します」。この、残存する波面の歪みを、波面収差と呼びます。

収差のない波面=参照球面

光線収差の基準となるのが主光線の座標であるのに対して、波面収差の基準は主光線の座標を中心とした完全な球状の波面です。この波面のことを参照球面と言います。OpticStudioのシーケンシャルモードでは、この参照球面を表示することもできます。参照球面については、波面収差の基準、参照球面_Zemaxコミュニティ注目トピック (6) も参照してください。

波面の特徴から、参照球面を構成する光線はすべて参照球面の中心に向かって進みます。よって、理想的な点像を結ぶことを意味していて、「波面が参照球面と一致する=光線が1点に集まる」となります。ですので、光線収差を示す横収差と、波面収差を示す光路差図は、本質的に同じメッセージを提示しています。

図42-3 1点に集まる参照球面(破線)からの光線と、ズレる実際の波面(実線)からの光線。 光学ノーツ13 波面収差について1 から引用。

光路差図の符号=波面が遅れている進んでいる

光線収差は評価面における主光線の座標からの位置ずれ(横収差)を表します。よって、プラスマイナスの符号は主光線の位置に対するズレ方向を表します。一方で、光路差図のプラスマイナスは位相の進み具合と遅れ具合になります。実際の波面が参照球面の波面に対して像面側にあるか、物面側にあるかで符号が決まります。(像側にあるとプラス、物体側にあるとマイナス)

例えば、焦点距離100mmのレンズがあって、そこに波面が平面の光が入射する光学系を考えます。そして、波面収差を評価する像面が105mmの位置にあるとします。デフォーカスしている状態です。

参照球面は、「像面から射出瞳までの距離の半径を持った球面」なので、この場合の参照球面の半径は105mm(Green)になります。一方で、レンズで集光される波面の曲率半径は100mm(Pink)なので、曲率半径の違いだけ参照球面とのズレ(光路差=波面収差)があります。

この時の光路差図のプロットは、頂点が下を向いた放物面になります(右図)。これは、入射瞳の中心から離れていくほど、参照球面に対して実際の波面が進んでいる(Z軸プラス方向(像側)にズレている)ことを示しています。

図 42-4 光路差図の符号のイメージ。瞳関数を横軸に、主光線を基準にして、実際の波面の進み/遅れをプロットする。

波面収差と光線収差の関係

本質的に同じことを示している波面収差と光線収差は、微分の関係にあります。具体的には、光路差図(波面収差)のプロットを微分すると横収差図(光線収差)になります。この部分を少し詳しく説明します。

図42-5は、理想的に結像している波面と光線を示しています。つまり、参照球面と実際の波面は一致しています。波面をググっと広げて平面にしてみます。そうすると、像面上で1点に集合していた光線が、光軸に対して平行になります。

図 42-5 参照球面の波面と光線位置のイメージ。緑の点は理想的な光線位置

同様に、実際の波面も参照球面と同じだけググっと広げてみます。そうすると、広げた実際の波面からの光線は、像面に対して完全な平行にはならず、参照球面の波面からの光線とはズレた位置に入射します。このズレの量を決めているのは、参照球面に対する実際の波面の傾き(=微分)と、波面から像面(評価面)までの距離になります。

図 42-6 実際の面と光線位置のイメージ。緑の位置に行けば理想的な点像だが、実際の光学系ではズレる。

以上、「光線収差は波面収差の微分であって、理想的な結像からの誤差という同じメッセージを伝えている」という説明でした。射出瞳上で波面を評価しているのが光路差図で、像面上で光線座標を評価しているのが横収差図です

図 42-7 波面収差と光線収差の関係。どこで評価しているかは他の解析機能でも重要になる。

光路差図は波面収差マップの断面図

波面収差を出力するもう1つの機能に、波面収差マップがあります。これはいわば、光路差図のソースになる解析機能で、2次元プロットで波面収差を出力します。光路差図は、この波面収差マップのx軸とy軸の断面を切り出したものになります。

波面収差マップは瞳座標全体で波面収差がどのように分布しているかを視覚的に理解できます。一方で、光路差図はグラフで波面収差の形状を理解できて収差の考察に向いています。どちらも波面収差を示す解析機能ですが、目的によって使い分けます。この点も、スポットダイアグラムと横収差図の関係と同じです。スポットダイアグラムについては、スポットダイアグラム_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (6) も参照してください。

図 42-8 波面収差マップ。参照球面と実際の波面のズレを2次元的にプロットする解析機能。

最近注目されている非軸対称系の自由曲面光学系の場合、光路差図ではxy軸上に含まれない領域にある重要な波面収差を見落とす可能性があります。光学の進化に伴って解析機能の使い方にも注意を払う必要がありそうです。

まとめ

ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、 シングレット レンズの設計方法 パート2 から、OpticStudioのシーケンシャルモードの解析機能でよく使用される「光路差図(波面収差)」について説明しました。 今回で、パート2を参照した記事は終わりです。次回から シングレット レンズの設計方法 パート3 に入り、「最適化の基本3ステップ」ついて説明します。

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