[88] 非点隔差あり_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (3)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、半導体レーザ(LD: Laser Diode)をOpticStudioで設定する方法の続きで、X軸とY軸方向で光源位置がZ軸方向にズレている、非点隔差を考慮したモデルの設定方法を紹介します。

結論

  • シーケンシャルモードで非点隔差をモデル化するには、1つの点光源をスタート地点として、近軸レンズを1枚使用します。
  • 非点隔差なしLDの設定方法で使用した、ビネッティングファクタは必要ありません。
  • ノンシーケンシャルモードの光源(ダイオード)オブジェクトには、非点隔差を設定するためのパラメータが用意されています。空間分布の情報が失われ、非点隔差を持った点光源になるのが注意点です。

このページの使い方

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。

半導体レーザ(LD)光源を設定する方法

トピックへのリンク (中国語): シーケンシャルモードでLaser Diode光源を設定する方法

非点格差のない、最も単純なLDの設定方法については、非点隔差なし_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (1) を参照してください。

併せて、考慮するビーム幅を1/e2より大きく拡張したいときは 1/e2半径以上のビーム_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (2) を、ノンシーケンシャルモードでLDを設定するときは 光源(ダイオード)の角度分布_ノンシーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (1) を参照してください。

非点格差のあるLD定義の準備

LDに非点隔差があるのはよく知られていますが、スペックシートに記載されていない場合も多いです。正確な非点隔差量を知るには、メーカに問い合わせるか、確実なのは実験で測定することです。

非点隔差の詳細は、 ROHM エレクトロニクス豆知識のページ を参照してください[1]。X軸方向とY軸方向でみかけの点光源の位置が光軸方向にズレている状況です。

幾何光学的には、発光点がズレているとコリメートレンズの設計に困ります。どちらか一方をの軸方向をコリメートすると、もう一方の軸方向をコリメートできなくなるからです。

レーザーダイオードでは接合部に垂直な方向と水平な方向で見かけ上の焦点位置が異なります。 この2つの焦点間の距離を非点隔差 (As) と定義しています。

ROHM > エレクトロニクス豆知識 > レーザーダイオードとは? > 非点隔差 (As) より引用
図 88-1 LDの非点隔差のイメージ図。一般的に、発散角の小さな方向の見かけの発光点が後ろに下がっている状態。

ビームの発散角1/e2半幅を確認

OpticStudioでLDを設定する場合、非点隔差の有無によらず、発散角度の定義は要チェックポイントです。多くのスペックシートにはFWHMで記載されていますが、OpticStudioで設定する場合は、1/e2半幅に基づいた数値が必要です。1/e2半幅は、0.8493 x FWHM で求まります。

近軸レンズを設定するパラメータの計算

フォーラムで紹介されている方法は、非点隔差の分だけ、Y軸方向の発光点の位置を前に移動させる方法です。具体的には、Y軸方向だけに光学パワー(屈折力)を持った理想レンズ、近軸XY面を1枚追加します。

非点隔差量をtとしたとき、t1、t2、近軸レンズの屈折力(焦点距離の逆数)を算出することで、XY方向の発散角度の違いと、みかけの発光点の光軸方向のシフトを同時にモデル化します。Mは倍率で、X軸とY軸の発散角度の比率を取ります。

筆者が確認した時点で、フォーラム中の屈折力の数式で、符号に誤植がありました。マイナスではなくプラスなので、注意していください。

図 88-2 YZ断面図。t1とt2の比が発散角度の違いを、t1+t2が非点隔差量を示している。

OpticStudioの設定

システムエクスプローラ

非点隔差なしのLDの場合、ビネッティングファクタを使って楕円状の発散ビームを定義していました。近軸レンズを用いる場合、発散角度の違いは近軸レンズの倍率が再現してくれるので、ビネッティングファクタは必要ありません。

図 88-3 非点隔差なしの時、ビネッティングファクタで瞳を圧縮することで楕円ビームを設定。

アパチャータイプを「物空間 NA」として、「近軸レンズでの発散角変換を行わない方=今回の場合はX軸方向の発散角」でsinを取った値を入力します。

アポダイゼーションタイプを「ガウシアン」に設定し、アポダイゼーションファクタを1にします。これで、入射瞳空間をガウス分布で照明し、瞳端で強度が1/e2 = 13.5% となります。これ以上のガウス分布の範囲を含める例を、この後で示します。

レンズデータエディタ (厚みと近軸XYレンズ)

物体面から第1面までの距離を、上で計算したt1にします。物体面がX軸方向の発光点になります。

物体面からt1の位置に「近軸XY面」を設定して、X軸の屈折力は0、Y軸の屈折力は上で計算したΦyを入力します。シーケンシャルモードのもう一つの理想レンズ、近軸面は光学パワーを焦点距離(単位はレンズユニット)で入力します。単位の違いに注意してください。

近軸XY面から次の面までの厚みはt2とします。この位置で、Y軸方向が理想的に集光するはずです。その集光点位置は物体面からt、つまり非点隔差の分だけ前にシフトしており、Y軸方向の発光点になります。

以上が、図88-2で示した、近軸レンズを用いた非点隔差を持ったLDがモデル化の手順です。

図 88-4 システムエクスプローラとレンズデータエディタの設定
図 88-5 非点隔差のあるLDモデル。X軸の発光点がY軸の発光点より後ろにある状態。

非点格差あり + 強度1%付近まで考慮したLDの設定例

1/e2半径以上のビーム_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (2) でも引用した、ROHM製、RLD63NPC8-00A [2]の仕様書を参考にしながら、非点隔差を追加しながら強度1%まで含む発散ビームを設定します。X方向のFWHMが8°、Y方向のFWHMが30°です。

非点隔差は仕様書に記載されていないので、仮の値としてフォーラムでも使用されていた 0.1mm を使用します。実際に非点隔差を取り扱う際は、必ずメーカに問い合わせるか、実測で確認してください

  1. FWHMを1/e2半値に変換します。0.8493128倍で、X方向が6.795°、Y方向が25.48°です。
  2. 1/e2半値を1%半値に変換します。1.5174倍で、X方向が10.31°、Y方向が38.66°です。
  3. NAに変換します。sinを取ります。X方向が0.1790です。
    • 1/e2のNAも計算しておきます。X方向が0.1183です。
  4. システムエクスプローラのアパチャーで、タイプを物空間NAにします。
    • 近軸レンズで非点隔差を表現する場合は、発散角変換を行わない角度を入力するので、X方向の1%半値のNA = 0.1790を入力します。
  5. アポダイゼーションタイプをガウシアンにします。
  6. アポダイゼーションファクタを計算します。(0.179)2 / (0.1183)2 = 2.2895 で、これを入力します。
  7. 倍率を計算します。M = (tan 6.795°) / (tan 25.48°) = 0.250です。
  8. t1とt2を計算します。t1 = t / (M + 1) = 0.080、t2 = M * t / (M + 1) = 0.020
  9. 近軸レンズのY軸方向の屈折力を計算します。Φy = 1/t2 + 1/t1 = 62.50
  10. レンズデータエディタで、計算したt1, t2, Φyを入力します。(終わり)

非点隔差なしのLDをビネッティングファクタで設定した結果と、非点隔差ありのLDを近軸XY面で設定した結果を比較すると、おおよそ一致していることが確認できました。どちらも1%までの強度を含んでいます。

図 88-6 非点隔差を含めたLDモデルと、非点隔差なしのLDモデルの照度分布比較。裾野部分の微妙な誤差は精度要因かも?

ノンシーケンシャルモードでの非点隔差の設定

ノンシーケンシャルモードには、光源(ダイオード)というLDを設定するのに便利な光源オブジェクトがあります。非点隔差を設定する場合、方法は2つあります。

1つは、光源(ダイオード)がパラメータとして持っている非点隔差のパラメータに数値を入力する方法です。注意点としては、非点隔差のパラメータに数値を入力した場合、それよりも右で設定した空間分布のパラメータがすべて無視されることです。つまり、XY軸方向のみかけの発光点が点光源になるので、このページで紹介したシーケンシャルモードの非点隔差を考慮した光源と同じになります。

もう1つは、同じく上で紹介した近軸レンズを用いて、非点隔差のある状態をモデル化する方法です。この方法であれば、空間分布を残して非点隔差が設定できるます。ただ、これがLDの非点隔差のモデル化方法として妥当かどうかは、皆様各々のご判断によります。

まとめ

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿された「シーケンシャルモードで半導体レーザを設定する方法」を取り上げました。LDの重要な特性である非点隔差をシーケンシャルモードで設定する方法を紹介しました。また、考慮するガウスビームの幅を1/e2から1%まで拡張する方法と組み合わせることで、さらに柔軟なLD設定が可能になります。

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