[87] 光学ニュースピックアップ (2022年4月)

光学ニュースピックアップ

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、2022年4月に発表された光学関連のニュースを取り上げ、OpticStudioとのつながりや、筆者の個人的なコメントを加えます。参考にしているページは、オプトロニクスオンライン、Optics.org、Laser Focus Worldなどです。

OPIE ’22 がパシフィコ横浜でオンサイト開催

光関連の専門展示会としては国内最大級の規模の、OPIE (OPTICS & PHOTONICS International Exhivision) が開催されました。301社が出展し、3日間のべ9528人が来場しており、去年の7256人から大幅に増加する結果となりました。まだ落ち着かない状況が続く中、少しずつ対面式のイベントも復活してきました。2023年も4月に開催予定です。

オンラインは距離の制約がなくて便利だけど、やっぱり直接会うことでプラスアルファの交流があるように感じます。手洗い、消毒などの自分でできる対策は確実に行いながら、光学技術で少しでも社会に貢献できるよう、光ラーニングも頑張っていきたいと思います

自動車関連 2件

ソニー,モビリティ開発新会社を設立 (OPTRONICS)

2035年自動運転システム市場,2兆5,381億円に (OPTRONICS)

ソニーグループが2022年4月1日付で設立したソニーモビリティ株式会社は、モビリティの進化に貢献する事業を展開します。ソニーのモビリティと言えば、2022年3月4日にHondaとモビリティサービスに関する合弁会社(2022年中の設立を目指す)で合意しています。今回のソニーモビリティ株式会社と、Hondaとの合弁会社は関係するのでしょうか?

富士キメラ総研がまとめた車載電装システムの世界市場動向では、光学技術関連部品の力強い伸長が予想されていました。2035年世界市場予測で、ADAS関連が2.3兆円(2020年比65.7%増)、自動運転システムが2.5兆円(2020年比976.2倍)など、さすがに市場が巨大です。光学的なキーワードは、カメラ、ミリ波レーダ、LiDAR、電子ミラー、HUD、ヘッドランプシステムといったところです。さて、自動車業界で光学エンジニアの需要は増えるでしょうか。

デバイス関連 4件

Corning backs DigiLens in latest funding milestone (optics.org)

浜ホト,世界最大級・高耐熱性のCW向けSLMを開発 (OPTRONICS)

サンケン電気,超高演色LEDデバイスを発売 (OPTRONICS)

LuminWave closes $20M venture round (optics.org)

コーニングがDigiLensの活動を強力に支援するニュースがありました。既存の支援者の中に、三菱化学の名前があるのも興味深いところ。アプリケーションはAR、VR、MRを包含したXR (Extended Reality)用デバイスで用いる導光板、そのキーパーツともいえる回折光学素子(DOE)です。DigiLensはもともと、ホログラム式の回折素子を取り扱っていましたが、この発表では、ブラッグ回折格子・表面レリーフ回折格子をホログラム技術で製造する、とされていて、さらなる進化の兆しが見えます。

浜松ホトニクスの液晶型SLM(Spatial Light Modulator: 空間光制御デバイス)は、従来の4倍の有効エリアと放熱効率を高めるセラミック基板を採用しています。レーザ加工機でCWが主流になってきている潮流に対応したデバイスです。液晶がハイパワーレーザのCW照射に耐えられるのも少し驚きでした。

サンケン電気のLEDは少し面白くて、2種類のLEDを併用することで高い演色性を示す光源です。サンケン電気のウェブページで2つのLEDのスペクトルを比較すると、確かにお互いの分布を補完するような形状をしているようでした。表色関連だと、光学ニュースピックアップ (2022年2月) で紹介したNHK技研の考案した色域表現Gamut Rings (ガマットリングス)があります。メーカがこの形式でスペックを謳う日も近いかもしれません。

LumiWaveは中国初のスタートアップで、FMCW LiDARをシリコンフォトニクスで実現しようとしています。筆者個人としては、従来の機械式走査+ToF方式は、徐々にソリッドステート+FMCWに移行すると思っていますが、そのペースは全く読めません。光学ニュースピックアップ (2022年3月) では、東芝がポリゴンミラー式の小型LiDARの発表を紹介しましたが、果たして。また、光学シミュレーションの貢献の仕方も変わっていくと思っています。幾何光学と他領域のソフトウェアとの連携がキーポイントになりそうです。

製品関連 3件

三井化学,植物由来のメガネレンズ材料を発売 (OPTRONICS)

NEC通信,3次元物体検知ソフトウェアを開発 (OPTRONICS)

キヤノン,MR用HMDの広視野角モデルを発売 (OPTRONICS)

三井化学の植物由来のメガネレンズ Do Green は、従来の樹脂レンズより軽量で割れにくく、視界も良好とのこと。レンズライフサイクルアセスメントにおいて、温室効果ガスを14%削減できます。この観点は、どの業界にも求められていると改めて実感しました。アッベ数が大きい(波長による屈折率変化が少ない低分散特性)ことも興味深い特徴です。OpticStudioで使えるガラスデータAGFファイルがあると良いのですが。

図 87- 三井化学 Do Green、MR-8 の分散特性。アッベ数がガラス材料の領域に入っている。三井化学ウェブページより引用

NEC通信システムは、3次元物体検知システムのソフトウェアをリリースしました。対応するハードウェアは現状Livox製のみのようですが、ビジネスとして成り立つようなら他のデバイスにも対応できるようになると思われます。機材、導入、保守を含まず1000万円からという費用が受け入れられるかが、素人目には気になります。下で紹介するLiDARも今後対象となるでしょうか。

キヤノンのビデオシースルー型のMRデバイス、MREALの新型が発表されました。前から視野角が大きく広がったことで、より没入感が強くなったようです。気になる光学系の詳細はあまりオープンにはなっていませんが、キヤノンのMRシステム用HMDに広画角化と軽量化を両立する「MREAL X1」登場 (MONOist) に概念図が記されていました。Metaと同じようなシステムに見えますが、果たして。

研究関連 5件

MIT develops novel fabrication method for mirrors and wafers (optics.org)

NIST researchers fabricate ‘record-setting’ lenses based on prehistoric eyes (optics.org)

すばる望遠鏡,レーザーガイド星生成システム更新 (OPTRONICS)

NECら,LiDARによる滑走路異物検知を実証実験 (OPTRONICS)

SBら,水中で1対多接続の光無線通信に成功 (OPTRONICS)

MITのSpace Nanotechnology Laboratory (SNL)から、光学面を超高精度で製造する技術に関する発表がありました。課題は、コーティングなどの必須の表面処理の応力によって面形状が劣化することです。これに対して研究者は、”You’re selectively removing stress in specific directions with carefully designed geometric structures, like dots or lines”とのことで、応力を制御するアプローチをとったようですが、筆者は正直よくわかっていません。

この発表で思い出されるのは、光学ニュースピックアップ (2022年3月) で紹介した、アクリル板と水だけでガラスの表面を研磨することで、原子レベルの平坦性を実現する東京大学の研磨技術でした。基材の研磨技術とコーティング技術の融合で、原子レベルの高機能光学面の実現するような未来は来るでしょうか。

NISTからは、近くのものも遠くのものも”同時に”フォーカスしてしまうメタレンズに関する研究発表がありました。これは三葉虫の眼を模擬したもので、まさにバイオミメティクス(Biomimetics)と言えます。ここまでくると、従来の光学設計もへったくれもありませんが、その時に必要な光学技術が表れていると思います。

図 87-2 NISTが研究しているメタレンズ。デバイスと併せて画像処理ソフトウェアが重要な働きをする。

すばる望遠鏡の補償光学用の参照光源が更新されたニュースについて、採用された光源は、光学ニュースピックアップ (2021/8/30~9/3) で取り上げていたドイツTopticaのガイドスターレーザです。すばる望遠鏡のウェブページで見れる、589nmのオレンジ色のレーザが天空に向けて出射される画像は美しさを感じます。

NECの長距離3D-LiDARは、測距距離が1kmにもなります。従来は、1日2回車両で往復して職員の目視で行っていた滑走路の異物確認作業を、大幅に効率化することが期待されています。保有技術の統合がキーポイントで、長距離大容量光送受信技術と、点群データ解析技術を活用しています。

光ラーニングでもたびたび取り上げる水中光通信では、ソフトバンクと東京海洋大学のチームが複数機器との通信を実証しました。キーとなる技術は指向性の高いレーザ通信で重要となる双方向のトラッキングです。水中での調査活動などで、早く実用化されることを期待しています。

まとめ

このページでは、2022年4月に発表された光学関連情報から、OPIE’22 + 14件をピックアップしました。筆者の知識レベルで取り上げられるネタは制限されますが、これからも気になった情報をご紹介したいと思います。

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