こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?
光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。 このページでは、OpticStudioのクセあり機能、レイエイミングを使うかの判断基準となる、瞳収差(入射瞳収差)について説明します。
結論
- 瞳収差はレイエイミングを使うかの判断材料です。一般的に瞳収差は補正対象ではありません。
- 瞳収差の最大値が数パーセントを超えている場合は、レイエイミングの使用を検討します。ただ、計算に時間がかかるようになるので、まずはレイエイミングをオフの状態で作業を進めて、設計が進んだ段階でレイエイミングを有効にする方法もありです。
- 瞳収差プロットでは視野に対する入射瞳の移動を知ることはできず、マクロが必要になります。
このページの使い方
このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、レイエイミングの使用法 です。この記事は、OpticStudioで広角レンズや軸外し系を設計するときに使用する、レイエイミングの使い方の概要を紹介しています。
このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。この記事は2番目です。1番目は、レイエイミングがオフの場合_レイエイミングの使い方 (1) です。
瞳収差 (Pupil Aberration)
技術記事では、レイエイミングを使うべきかの判断材料として、瞳収差のチェックが提案されています。この瞳収差機能が評価の対象とする瞳は「入射瞳」で、光の入り方を評価します。一方、結像性能を評価するときは「射出瞳」を評価します。
瞳収差は、「近軸入射瞳を満たすように出射した光線が、実際の絞り面をどのくらい狙った通りに満たすか」を評価する解析機能です。
光学系を通過できる光の量を実際に規定(制限)しているのは絞りです。その絞り面の共役面が入射瞳面なので、絞り面より前に光学系があると、収差によって絞り面の形状と入射瞳の形状は完全には一致しません。別の言い方をすると、「近軸入射瞳と実際の入射瞳のズレ」を知る指標が瞳収差です。
虫眼鏡のように、レンズの外周が絞りで入射瞳の場合、瞳収差はゼロになります。
光線収差のアナロジーで考える
瞳収差が分かりにくいと感じる場合、光線収差と同じように捉えてみるのはいかがでしょうか。光路差図(波面収差)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (9) の波面収差と光線収差の関係で示した、射出瞳上での波面から参照球面の曲率を除いて、像面に平行光線が入るように考えた手法を使います。
光線収差は、「理想的な光線の入射座標」からの「実際の光線の入射座標」のズレを瞳関数でプロットしたものです。
瞳収差は、「理想的な近軸入射瞳への入射座標」からの「実際の絞り面への入射座標」のズレを瞳関数でプロットしたものです。
瞳収差は補正対象ではない (一般的には)
瞳収差で気にするべきは、その大きさが光学性能に与える影響ではなく、「実際の絞りを光線が満たしていないこと=光学系を通るすべての光線が考慮されていないこと」です。
検討中の光学系が広角だったり軸外しの場合、「絞り面を満たせているかな?」と瞳収差をチェックします。もし満たしていないときはレイエイミングを有効にします。レイエイミングを有効にしたあと、「レイエイミングは絞り面を満たすような経路を見つけてくれているかな?」を確認します。
レイエイミングは、瞳収差がゼロになっているように見えますが、これは「そうなるような経路を見つけているだけ」で、瞳収差を補正しているわけではないです。
瞳収差が出ないように絞り面前の光学系形状を制限することは、最終的な光学系の品質に寄与するものでしょうか?残念ながら、筆者にはこのあたりの知見はありません。”(一般的に)”、とずるい表現になっています。もう少し、この辺りは勉強していきたいです。
瞳収差の計算の詳細
OpticStudioの定義では、主波長の近軸光線が絞り面に入射する位置に対して、絞り面上での実光線の入射する位置の差分を取って、近軸絞り半径を1としたときの割合を示したものです。ちょっと複雑。
上の図で、瞳収差は光線収差のようにレンズ単位で測定しますが、評価するときの一般的な単位はパーセントとのことです[1]。
ここで、瞳収差の計算プロセスをまとめます。光学設計においては、あまり重要ではないかもしれません。
- 近軸入射瞳: 主波長を使った近軸計算によって算出される
- 物体面から出射する光線: 光線の波長によらず近軸入射瞳を満たすように出射される
- 絞り面上での光線座標のズレ: 「波長を考慮した実光線の絞り面の入射座標」と「主波長の近軸光線の絞り面の入射座標」の差分を取る
- 瞳収差の計算: 「絞り面上での光線座標のズレ」を「主波長の近軸絞りの半径」で割ってパーセントで算出する
計算式で書くと以下になります。基準となる座標と半径が、主波長で計算されているのが特長でしょうか。
瞳収差が数%だったらレイエイミングが必要?
レイエイミングを使用する瞳収差の数値として「数パーセント」が挙げられています。実際にはレイエイミング使用の判断は曖昧です。数パーセントというのも一つの目安くらいに考えています。
特に、軸外の視野では比較的あっさりと数パーセントの瞳収差は発生します。技術記事でも参照されている、Double Gauss 28 degree field.zmxでも最も外側の14度の視野では、瞳の端で2%程度の瞳収差があります。
では、このダブルガウスでレイエイミングを使用するか?と言われたら、少なくとも設計が詰まっていない段階では使用しません。
ただ、設計が固まってきたとき、MTFなど重要な仕様となる光学性能を評価するときや、詰めの最適化を行う場合は、レイエイミングを使用するかもしれません。物理的な絞りをきっちり満たした光線で評価したいためです。レイエイミングがオフの時、絞りのエッジ付近で瞳収差が大きかった光線が悪さをしていないか、確認します。
入射瞳の位置が移動する収差
OpticStudioの瞳収差プロットではわからないのが、視野に対して入射瞳の位置が移動する瞳収差です。Entrance Pupil ‘walking’ とも表現されています[2]。レイエイミングがどうやって視野ごとに移動していく実際の入射瞳の位置を見つけ出しているか、その探索アルゴリズムは開示されていません。
OpticStudio 22.1で追加された強化されたレイエイミングは広角システムの設計に特化した機能とのことです。この入射瞳の位置がずれていく光学系に対する経路探索をうまくできるように強化されたのかもしれません。
まとめ
ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、レイエイミングの使用法 から、レイエイミングの使用の判断材料となる、瞳収差について説明しました。「収差」と名がついてはいますが、補正の対象というよりは、近軸入射瞳に向けて生成した光線が光学系を通る光を十分カバーしているかをチェックするための機能(指標)です。
<参考>
[1] 光学サロン、瞳収差は何? http://www.lensya.co.jp/010/wforum.cgi?mode=allread&no=10576&page=0
[2] アリゾナ大学講義資料、Lens design OPTI 517, Pupil aberrations and effects, http://wp.optics.arizona.edu/jsasian/wp-content/uploads/sites/33/2016/03/L23_OPTI517_Pupils.pdf
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