[79] 非点隔差なし_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (1)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、半導体レーザ(LD: Laser Diode)をOpticStudioで設定する方法を説明します。

結論

  • 典型的な端面発光型LDから出射される楕円状の発散ビームを定義する場合、ビネッティングファクタを設定することで、簡単に楕円ビームを定義できます。
  • アポダイゼーションタイプをガウシアンにすることで、入射瞳面上での照度分布がガウス分布の光源にできます。ビネッティングファクタとアポダイゼーションの組み合わせで、LDを直観的に表現できます。

このページの使い方

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。

半導体レーザ(LD)光源を設定する方法

トピックへのリンク (中国語):・シーケンシャルモードでLaser Diode光源を設定する方法

半導体レーザは現在非常に多くのアプリケーションで使用されているレーザ光源です。光ラーニングでは半導体レーザそのものの説明はできませんので、発光原理や製造プロセスについてはより適切なリソースを参照してください。

このページでは上で紹介したリンクを参考にして、OpticStudioのシーケンシャルモードでLDを設定する方法を説明します。

OpticStudioで定義するLDの制約・注意点

OpticStudioは幾何光学をベースとした光学ソフトウェアなので、レーザの振る舞いをモデル化する精度に限界があります。これがすべてと言えばそうなのですが、より具体的には以下の点が制約になります。このページではその詳細には触れません。

  • 光源は点光源になります。つまり発光エリアの空間的な大きさは考慮できません。
  • ビームの伝搬距離が長いと実際のビーム径を正しく解析できません。
  • ピンホールのような空間フィルタの影響を考慮できません。
  • ビームを集光したとき、最小スポットの位置が幾何光学と波動光学で光軸方向にズレます。

非点隔差のない簡易的なLD定義方法

シーケンシャルモードでLDをモデル化する基本方針は、点光源からの発散ビームとみなすことです。実際のLDは点光源ではなく、有限の発光エリアを持っています。シングルモードLDであれば、発光領域はX軸方向とY軸方向でガウス分布になります。

もう一つLDの点光源化で課題になるのが非点隔差です。詳細は ROHM エレクトロニクス豆知識のページ を参照してください[1]。X軸方向とY軸方向で点光源の位置が光軸方向にズレている状況です。

レーザーダイオードでは接合部に垂直な方向と水平な方向で見かけ上の焦点位置が異なります。 この2つの焦点間の距離を非点隔差 (As) と定義しています。

ROHM > エレクトロニクス豆知識 > レーザーダイオードとは? > 非点隔差 (As) より引用

このページでは、いったん非点隔差は無視、つまりはLDを純粋な点光源としてモデル化します。そして、点光源からの角度プロファイルがガウス強度分布になるよう設定します

発散角度の定義をFWHMから1/e2半幅に変換

LDのスペックシートには発散角度が記載されており、これをもとにシステムエクスプローラのアパチャーの値を設定します。注意すべきは角度の定義で、多くの場合、FWHM (Full Width Half Maximum)が採用されています。日本語、というか筆者がいた文化では「半値全幅」と呼んでいました。

OpticStudioの場合、FWHMではなく1/e2半幅の値を使用するので、換算が必要になります。変換式は、ヘルプファイルの「光源(ダイオード)」に記載されています。

例えば、FWHM=30° のLDの場合、1/e2半幅は 25.48°になります。システムエクスプローラのアパチャータイプを「物空間NA」にして、値をsin(25.48) = 0.4302 とすれば、円錐角25.48°の発散ビームが定義できます。

図 79-1 発散角度を一般的なFWHM(半値全幅)、OpticStudioでよく使う1/e2半値の定義。およそ0.85倍。

楕円形状の発散ビームをビネッティングファクタで設定

次に、視野データエディタのビネッティングファクタを使用します。ビネッティングファクタの詳細は、またの機会で説明したいと思います。ここでは、楕円形状のビームを定義するのに必要なパラメータのみ紹介します。

ビネッティングファクタは、入射瞳を満たすビーム形状を調整するパラメータです。LDからの発散ビームを定義する場合、入射瞳平面に投影されたビーム半径の比率を変化させます。具体的には、発散角度の正接(tan)をとって楕円の長軸長さと短軸長さの比率を取り、短軸方向を圧縮します。

VCX or VCYでビーム形状を圧縮

楕円形上のビームを設定する場合は、視野データエディタでVCXもしくはVCYパラメータを設定します。デフォルトはゼロで、これは「入射するビーム形状」=「近軸入射瞳の形状」がきれいな円を意味します。VCXとVCYは、ビーム形状を下図のように圧縮するパラメータです。

図 79-2 楕円ビームをビネッティングファクタVCX/VCYで設定する。

ガウス分布の角度プロファイルをアポダイゼーションで設定

角度プロファイルはデフォルトだと「均一」です。これは、入射瞳を光が均一に照明していることを意味します。アポダイゼーションタイプを均一から「ガウシアン」に変更すると、入射瞳上での光の分布がガウス分布になります。

このとき、アポダイゼーションファクタがガウスビームの幅を調整するうえで重要なパラメータとなります。まずは1にしておけば、入射瞳のエッジでピークからの強度が1/e2になるガウス分布が得られます。これらの詳細については、アポダイゼーションでガウスビーム_Zemaxコミュニティ注目トピック (18) を参照してください。

図 79-3 アポダイゼーションタイプをガウシアンに、ファクタを1にした時の入射瞳面上でガウス分布になる

実際のLD製品の具体的な設定例

ここまでの数値は実際のLDの仕様書を参考にしていました。ROHM製、RLD63NPC8-00A[2]。

X方向のFWHMが8°、Y方向のFWHMが30°をシーケンシャルモードで設定するプロセスは以下の通りです。

  1. FWHMを1/e2半値に変換します。0.8493128倍で、X方向が6.795°、Y方向が25.48°です。
  2. NAに変換します。sinを取ります。X方向が0.1183、Y方向が0.4302です。
  3. システムエクスプローラのアパチャーで、タイプを物空間NAにします。値が大きい方のNAを入力するので、この場合はY方向の0.4302を入力します。
  4. アポダイゼーションタイプをガウシアンに、アポダイゼーションファクタを1にします。
  5. Y方向の発散角度が大きいので、X方向にビームを圧縮して楕円ビームを設定します。
  6. 入射瞳上のビームの大きさを計算します。1/e2半値のtanを取ります。X方向が0.119、Y方向が0.477です。
  7. 比率を取ると、0.25です。VCX = 1 – 0.25 = 0.75を入力します。(終わり)

少し気になる「入射瞳上でのガウス分布」

筆者が少し気にしているのは、アポダイゼーションは入射瞳上の照度分布を変化させる機能だということです。つまり、アポダイゼーションタイプをガウス分布にした時は、「入射瞳平面上の照度分布」がガウス分布になります。

一方で、LDの角度プロファイルは、発光点を中心にした「球面上での照度分布」として測定されます[3]。発散角度が小さい場合は誤差も小さいですが、発散角度が大きくなると球面と平面の差が無視できなくなります。この懸念点については、今後の光ラーニングでも取り上げたいと思います。

まとめ

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿された「シーケンシャルモードで半導体レーザを設定する方法」を取り上げました。今後ますます幅広いアプリケーションで使用されるであろう半導体レーザを、比較的簡単な方法でシーケンシャルモードで取り扱えるのはありがたいです。

OpticStudioがあくまで幾何光学ベースであること、光線のサンプリング方法に制限があることなど、精度の面で少し気になる点もありますが、基本的な検討には十分有用な手法になると思います。

<参考>

[1] ROHM, https://www.rohm.co.jp/electronics-basics/laser-diodes/ld_what8

[2] MOUSER, LD spec sheet, https://www.mouser.jp/datasheet/2/348/rld63npc800a010-e-1843492.pdf

[3] ROHM, https://www.rohm.co.jp/electronics-basics/laser-diodes/ld_what6

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