こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?
光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、HUD (ヘッドアップディスプレイ)の初期設計で光学部品の設置において、座標ブレークの活用方法について説明します。
結論
- 参考にしたサンプルファイルにおいて、シーケンシャルモードでのHUDの初期の光学設計は、虚像→人間の瞳(絞り)→フロントガラス→1枚目ミラー(1回目)→2枚目ミラー→1枚目ミラー(2回目)→ディスプレイの順に設定します。
- 単一のミラーで複数回反射する光学系で、ミラーの位置がずれないように設定する機能として、座標ブレークの「座標リターン」機能がとても便利です。
- 座標ブレーク面のパラメータに「主光線ソルブ」を設定すると、主光線とローカル軸が自動的に一致するのでとても便利です。
- 座標ブレークを用いた軸外し系の設定方法は人それぞれ。自分流の設定方法を持っておくことで、他の人が設定したファイルも把握できるようになります。
このページの使い方
このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、Which tools to use when working on a Head-up-Display (HUD設計に使用する機能) です。この記事は、OpticStudioでHUDを設計・解析を行う上で有用な機能一式を紹介しています。
このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。この記事は3番目です。2番目の記事は、サンプルファイルはまずシステムエクスプローラから確認_HUD (Head Up Display) (2) です。
座標ブレークを用いたHUD光学系の初期設定
技術記事に添付されているサンプルファイルから、初期設定のデータ(HUD_Step1_StartingPoint.zmx)を開きます。各光学部品の配置と光線の経路は以下の流れになります。
- 虚像から絞り面(人間の瞳)、バーチャルプロパゲーション
- 絞り面からフロントガラス、反射
- [難解] 1枚目のミラー → 2枚目のミラー →1枚目のミラー、計3回反射
- 1枚目のミラーから像面(ディスプレイ)
虚像から絞り面
光線のスタート地点は人間が視認する虚像です。HUDの光学設計において、検討の対象となる光は人間の瞳に入射する領域のみで、光線を物理的に制限する絞り面は人間の瞳になります。
虚像を物体面(光源)、人間の瞳を絞り面とすると、虚像上の一点から出射した光線は絞り面を満たします。この部分をバーチャルプロパゲーションで逆方向(-z軸)に伝搬したのち、実伝搬(+z軸)に切り替えて光学系を進みます。虚像とバーチャルプロパゲーションについては、虚像とバーチャルプロパゲーション_HUD (Head Up Display) (1) を参照してください。
絞り面からフロントガラス、下方向に反射
絞り面からは実伝搬となって、以降は光学部品を考慮します。最初の光学部品はフロントガラスです。フロントガラスは、位置を運転席の目線に合わせる用のXYディセンタと、Xティルトで45度傾いています。座標ブレークの基本的な使い方については、座標ブレーク(Coordinate Break)ってなに? を参照してください。
① 光線に沿った座標から始まります。② 1つ目の座標ブレークで座標を45度傾けて、その座標上でミラー面を設置します。③ 2つ目の座標ブレークでさらに45度傾けて、次の面に向かいます。④ 2つの座標ブレークで座標は90度回転しています。OpticStudioのルールで「奇数回ミラーで反射した後は光線が-z軸方向に進む」という前提があるので、座標は上を向きでも、反射した光線は下方向に進むようになっています。
かくして、フロントガラスに入射した光線は下方向に折り曲げられて、ダッシュボードの中に導かれました。
[難解] 1枚目のミラー → 2枚目のミラー →1枚目のミラー、3回反射
ダッシュボード内部で2枚のミラーにより定義された反射光学系が、今回のHUDサンプルで最も理解しにくい部分かもしれません。最大の理由は、1枚目のミラーで光線が2回反射する構成となっていることです。往路(反射1回目)と復路(反射2回目)でミラーの位置と傾きがぴったり一致させる必要があります。
1枚目のミラー (1回目の反射)
⑤ フロントガラスで反射した光線は、1枚目のミラーに向かいます。⑥ ミラー面前に設定された座標ブレークのパラメータを確認すると、XYディセンタとXティルトが40度で設定されています。
XYディセンタは、曲面のフロントガラスで反射した主光線とミラーの中心位置を大まかに合わせるために入力されています。仮にフロントガラスがフラットであれば、ディセンタは不要です。
ミラーの設置角度は40度で、光線の偏向角度はミラーの設置角度の2倍になるので、反射後の光線の角度は80度になります。
座標ブレークで定義され座標でミラー面が設置されますが、ここでのミラー面設定の特徴があります。⑦ ミラー面の厚みに直接数値が入力されており、「ミラー面を設定した座標系のまま」後続の反射経路が定義されていることです。
一般的には、フロントガラス設定のようにミラー面を2枚の座標ブレークで挟み、ミラー面を設置する座標と反射後の次の面へ向かうための座標を別々に定義します。今回のサンプルファイルでは、後者のプロセスがスキップされています。
2枚目のミラー (将来的に自由曲面になる重要ミラー)
⑨ 2枚目のミラーは、1枚目のミラーの座標に対して50度ティルトして設置されます。40度ティルトと50度ティルトを合わせて90度となり、2枚目のミラーの設置角度は虚像、絞り面と平行になります。
⑩ XYディセンタにも数値が入っています。Xディセンタは1枚目のミラーと同じくフロントガラスの曲率でX軸方向に傾いた光線を受けるためのものです。Yディセンタは、座標が1枚目のミラー面に沿って進んだために、80度偏向した光線を受けられるよう大幅に下方向に2枚目のミラーを移動させるために使用されています。
1枚目のミラー (2回目の反射)
前述の通り、この反射光学系の特徴は1枚目のミラーで光線が2回反射する構成です。つまり、⑪ 2枚目のミラーで反射した光線は、もう一度1枚目のミラーに入射します。
シーケンシャルモードで設定する場合、1枚目のミラーに再度入射するとき、1回目の反射で設定したミラー面を光線は認識しません。そのため、レンズデータエディタ上でもう一度1枚目のミラーを設定する必要があります。ここで難しいのが、1回目に入射するときと2回目に入射するときの位置と角度はぴったり一致させることです。
これを自動化する機能が、座標ブレーク面の「座標リターン機能」です。座標ブレーク面のプロパティで、Tilt/Decenter で設定可能です。このファイルでは下図のように設定されています。座標ブレークのソルブの窓には、座標リターンが設定されたことを示す「R」が表示されます。
⑫ 座標リターンによって、1枚目のミラーの座標に自動的に戻ることができます。メリットは、解析や最適化の場面で反射1回目のミラーの座標を調整したとき、反射2回目のミラーの座標パラメータが連動して調整されることです。今回の結果では、上の座標ブレークのパラメータの符号を変えた数値が入力されており、順序フラグは1になっています。順序フラグについては、座標ブレークの順序フラグ(Order)ってなに? を参照してください。
1枚目のミラーから像面(ディスプレイ)
⑬ 1枚目のミラーで2回目の反射をしたのち、光線はディスプレイに向かいます。この時、ディスプレイが設置される場所はミラーの位置によらず、光線の到達した先になります。そのため、次の面を設定するためのローカル軸は、光線の進む方向と一致している方が好都合です。
これを実現するのが、座標ブレーク面専用のソルブ、「主光線ソルブ」です。主光線ソルブは、ローカル軸を任意の視野点の主光線と一致させる機能です。⑭ 1枚目のミラー(反射2回目)の次の座標は、反射光線の主光線と一致します。
主光線ソルブのメリットは座標リターンと同様、光学系を調整によってミラーの角度が変わって主光線の位置と方向が変わると、座標ブレークのパラメータも自動で再調整されることです。
サンプル光学系をトレースしての考察
以上のようにサンプルの座標を追いかけた結果から、「2枚目のミラーの設置角度は、虚像と平行になること決まっていた」と考えられます。そして、「フロントガラスから反射してミラーに入射する光線経路と、1枚目のミラーで2回目の反射後にディスプレイに向かう経路を角度的に分離する」要件から、1枚目のミラー設置角度が45度から少しずらした40度に設定されています。
今回のサンプルファイルの場合、フロントガラスからの入射光線とディスプレイに向かう反射光線には、角度でおよそ20度ずらすことができます。細かくは、フロントガラスが平面ではないので、数値は多少ずれています。
意図が不明の数値が残っている?
1枚目のミラーから2枚目のミラーまでの厚さの端数(38.716445)、そして2枚目ミラーを設置するときのYディセンタの端数(41.423009)が意味するところは、今回のトレース作業では分かりませんでした。可能性で言えば、このサンプルファイルが完成するまでの間の設計プロセスで、何かしら意味(sin, cos, tan)をもって入力された数値と考えられます。
このような由来不明の端数は、取り扱いが難しいです。設計データを引き継いだ人が見たときに、その数値が重要なのか、特に意味のない数値(編集してもよい数値)なのか分からないからです。
この技術記事は、このサンプルファイルを初期データとしています。自由曲面ミラーの形状や、ディスプレイまでの距離は最適化で設計しますが、1枚目と2枚目のミラーの相対位置関係には手を出していません。そのため、意味が分からない端数はノンシーケンシャルモード、CADデータにエクスポートしたデータにも残ります。
まとめ
ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、HUD設計に使用する機能 から、添付されているサンプルファイルの光学系の座標を追跡しました。1枚のミラーで複数回反射するときの座標制御で有用な「座標リターン」と、光線とローカル軸を合致させるのに有用な「主光線ソルブ」の具体的な活用シーンを紹介しました。
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