[64] RMS波面誤差の計算(多色)_Zemaxコミュニティ注目トピック (16)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、Zemaxコミュニティで注目されている多色RMS波面誤差の計算方法を説明します。

Zemaxコミュニティについては、こちらのページ で概略を説明しています。

このページの使い方

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。

RMS波面の計算方法

トピックへのリンク: 多色RMS波面誤差の計算方法

前の投稿 (RMS波面誤差の計算(単色)_Zemaxコミュニティ注目トピック (15))では、単色のRMS波面収差の計算方法について説明しました。このページでは、本題の多色RMS波面収差の計算に入ります。

カメラレンズのような可視光全体を対象とした光学設計では、複数の波長を波長エディタに設定して、すべての波長に対して光学性能が改善するように設計を進める必要があります。そのため、波面収差の評価も複数波長にわたって評価したくなります。

OpticStudioのRMS vs. Field機能には、複数波長の波面収差をミックスしてRMS波面収差を出力する、多色RMS波面収差を計算する機能があります。

多色RMS波面誤差の計算方法

トピックおよびヘルプファイルに記載されている、多色RMS波面収差の計算式は以下の通りです。

この式の大事なポイントは、RMS波面誤差はすべての波長のOPDの結果をすべて含めて計算することです。例えば3つの波長を使用した光学設計で、3波長ごとにRMS波面誤差の数値を出しておいて、その3つの単色RMS波面誤差から多色RMS波面収差を計算するのではないです。

単色RMS波面誤差と多色RMS波面誤差は基準が異なる

単色RMS波面誤差と多色RMS波面誤差の違いは、参照球面です。単色の場合は、選択している波長の参照球面を基準に各光線のOPDを計算します。多色の場合は、参照球面の中心が主波長で計算されます

参照球面の基準が、主波長の主光線もしくはセントロイドの位置になるので、選択している波長の主光線の位置とズレが生じます。つまり、基準を主波長としたときの波面収差には、倍率色収差(波長による横方向のズレ)が含まれます。

図 64-1 多色RMS波面誤差を計算するときの各波長のOPDは、主波長の参照球面基準で計算される

計算式にあるOPDの正体は平均値からの差分

さて、ここでまた数式を確認します。注意すべきは、数式内のOPDがどう計算されているかです。結論から言えば、波面収差マップで出力されるOPDではなく、選択されている波長で出力されるOPDの平均値を差し引いたOPDです。

これは、単色のRMS波面誤差の計算式と同じ処理になります。波面収差マップで出力されるOPDは主波長の光路長をゼロにしますが、RMS波面誤差を求める時はOPD平均値からのばらつき(標準偏差)を計算するのでした。

図 64-2 RMS波面誤差を計算するときOPDの平均値を引くのは、赤線の基準位置を上下させることに等しい。

数式から明らかなように、各波長の波面収差マップで出力されるOPDを二乗して足し合わせていくと、多色RMS波面誤差はOpticStudioで出力される数値よりずいぶん大きくなります。

図で考える多色RMS波面誤差の計算プロセス

細かい点を繰り返しますが、差し引くのは「各波長で出力されるOPDの平均値」です。全波長のOPDを足し合わせての平均値ではありません。3波長の多色RMS波面誤差の計算プロセスを図で示すと以下の通りです。

図 64-3 3波長の多色RMS波面収差の計算の流れ。「生OPD」は主波長で定義される参照球面基準であることに注意。

OpticStudioの多色RMS波面誤差をよりクリアに数式で表現すると、以下のようになります。<>かぎかっこは平均値を意味します。

繰り返しとなりますが重要なのは、多色RMS波面誤差の計算は、すべての波長、瞳全体の光線をすべて一括で考慮して計算されることです。

もう一つ、単色RMS波面誤差との違いは参照球面で、多色RMS波面誤差を計算するときは主波長で定義される参照球面が使用されます。この基準の違いのため、一般的に、特に軸外では「多色RMS波面誤差>単色RMS波面誤差の平均」になる傾向を示します。

メリットファンクションで多色RMS波面誤差の計算を再現する

トピックでは続けてZemaxのCsillaさんから、多色RMS波面誤差の計算結果をメリットファンクション上で再現するプロセスが紹介されています。RMS波面誤差の計算をメリットファンクションの計算のアナロジーで考える興味深い検証プロセスとなっています。興味のある方はぜひ、トピックで詳細をご確認ください。

RMS波面誤差 vs Fieldで出力される多色RMS波面誤差と同じ計算を行うオペランドとして、OPDXオペランドが紹介されています。ヘルプファイルに記載されるOPDXオペランドの説明は以下の通りです。

OPDX: Waveで指定された波長において、瞳全体での平均OPDを基準とした光路差。ただし、ティルト成分は差し引く。(翻訳は筆者による)

Zemaxコミュニティに添付された、OpticStudioヘルプファイルより引用

「指定された波長において、瞳全体での平均OPDを基準とした」という部分が、波面収差マップで出力されるOPDから平均値を差し引く処理を意味しています。「ティルト成分を差し引く」というのは参照球面の中心を主光線ではなく、セントロイド基準で定義することを意味しています。主光線を基準とする時は、OPDMが使用されます。

まとめ

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿された「多色RMS波面誤差の計算方法」を取り上げ、特に数式にあるOPDが、「各波長の平均OPDを差し引いたものである」ことを説明しました。これにより、波面収差マップのOPDデータからOpticStudioが出力する多色RMS波面誤差を計算することができます。

気になって取り組んで検証ですが、いかに自分が詳細を知らずに機能を使用しているかを痛感しました。これからも光学とソフトウェア両方の知識を増やしていきたいと思いました。

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