[59] 光の回折と干渉から回折光線_OpticStudioの回折光学面 (1)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、回折格子によって発生する「回折」と「干渉」の結果を、幾何光学における回折「光線」として表現する背景について説明します。

結論

  • 回折とは、遮蔽物に当たった波(光を含む)が回り込む現象です。この振る舞いは、幾何光学では説明できません。
  • 干渉とは、2つ以上の波(光を含む)が同じ位置に到達したとき、強め合ったり弱め合ったりする現象です。この振る舞いは、光線の位相を追跡することで、幾何光学でも考慮できます。
  • 幾何光学での回折格子のモデル化は、回折と干渉の結果を光線の角度に変換することで実現されます。

このページの使い方

このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、How diffractive surfaces are modeled in OpticStudio (Zemax技術記事、英語) です。この記事は、OpticStudioが回折光学素子や回折光線をどのように取り扱っているかについて記載されています。

このページでは、技術記事で使われている光学用語、技術用語、前提知識について、いくつかのブロックに分けて説明を加えていきます。このページは(1)です。

光の回折 (Diffraction)

光に限らず、空間中を進む波は、障害物に当たるとその背後に回り込んで伝わっていきます。この現象が「回折」と呼ばれ、光の波としての性質を考慮することで理解できるもので、光の振る舞いを光線という直線で表現する幾何光学では表現できません。幾何光学については、幾何光学とシーケンシャル_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (1) を参照してください。

図 59-1 幾何光学(左)と波動光学(右)。遮蔽物後の光の振る舞いは、光線ベースの幾何光学では表現できない。

OpticStudioは幾何光学をベースにした光学シミュレーションソフトウェアなので、回折現象を完全にサポートすることはできません。例外的に光の回折現象を解析できる機能として、物理光学伝搬(POP: Physical Optical Propagation)があります。

光の干渉 (Interference)

光に限らず、空間中を進む波は、別の波と同じ位置に到達すると足し合わされます。この現象が「干渉」と呼ばれ、波の高いところ(山)や低いところ(谷)同士が合わさる場所では波の高さが増幅され、高いところと低いところが合わさると打ち消し合って波の高さは小さくなります。これを重ね合わせの原理と言います。

もっとも有名な干渉の実例は、ヤングのダブルスリットの実験です。詳細な説明は他のサイトに譲るとして、大事なのは、定常的な干渉縞が発生することです。下の図は、宇宙航空研究開発機構のアーカイブページ[1]から引用しています。

図 59-2 光の干渉と結果としての干渉パターン。干渉パターンを光線で表現したい。

回折格子=光が回折して、干渉する

回折格子は、光の回折と干渉を組み合わせて利用する光学素子です。表面のギザギザ形状によって光の回り込み現象(回折)を顕著に発生させます。回り込んだ回折光はずらりと横に並んでいて、回り込んだ光同士が強め合ったり弱め合ったり(干渉)します。

下の図は、大阪教育大学のサイト[2]より引用しています。回折格子はピッチ幅が狭く、そこで発生した回折光は、球面波とみなせます。

図 59-3 回折格子に入射した光は、ピッチごとに回折現象で広がりながら、他のピッチからの回折光と干渉している。

この回折と干渉の結果として得られる干渉パターンを、狙ったパターンとなるように設計・製造した光学素子が回折格子です。用途に応じて、様々な回折格子が製造されています。例えば、エドモンドオプティクスではこちらのページから既製品を確認できます。

図 59-4 透過型回折格子の画像。虹色に見える。エドモンドオブティクスから引用。

OpticStudio(幾何光学)における回折格子と回折光線

ヤングのダブルスリットの実験を思い出します。

スリットが2本だと、像面上の干渉パターンの強度変化はゆっくりと連続的に変わっています。スリットの数を増やしていくと、回折パターンはどうなるでしょうか。ピークが発生する位置は変わらずに、強度の変化が急峻になっていきます。

たくさんの球面波が重なってきて、本当にすべての波の位相がそろう場所でしか強め合うことができない状態です。下の図は、A-lebel Physics Tutor[3]より引用しています。

図 59-5 スリットの数によるスクリーンで得られる干渉パターンの変化。スリットが多いほどピーキーになる。

OpticStudioや他の幾何光学ベースのソフトウェアが回折光線として追跡するのは、この離散的なピークの頂点に到達する光線です。つまり、OpticStudioの回折格子は、ピッチが小さく、非常にたくさんのスリットを持っていることを前提にします。

点がどの位置になるか=回折光線の角度は、回折格子のピッチ、入射光線の波長、入射光線の入射角、回折格子前後の媒質の屈折率によって決まります。詳細は、ナレッジベースまとめ_OpticStudioでの回折面の取り扱い を参照してください。

また、OpticStudioは回折光線に割り当てられるエネルギー(回折効率)を解析できません。あくまで、回折格子のピッチで決まる回折光線の角度のみを、回折方程式に従って計算するだけです。

図 59-6 回折光線の生成方法。スリットが多く、干渉パターンの幅が十分に小さいので、光線で表現できる。
図 59-7 OpticStudioで生成された回折光線。各次数につき、1本の回折光線で表現される。

逆に言えば、OpticStudioは回折現象そのものを解析できないので、スリットの数が少ない場合の干渉パターンをシミュレーションすることができません。干渉パターンに現れている、ピーク周辺の広がりを光線でモデル化できないからです。

参考として、回折現象を散乱現象で表現することで、ヤングの干渉実験をノンシーケンシャルモードで再現した例がありました。興味のある方は、Simulation of Young’s interference experiment via geometric ray tracing in OpticStudio (Zemax技術記事、英語) を参照してください。

まとめ

ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事 、How diffractive surfaces are modeled in OpticStudio (Zemax技術記事、英語) から、光の「回折」と「干渉」を取り上げました。幾何光学ベースのOpticStudioが、いかに波動光学的な現象である回折と干渉を、幾何光学的な光線で表現しているかを説明しました。 幾何光学と波動光学は同じ光を取り扱うものなので、前提条件を整えることで、同じ現象をそれぞれの表現方法で表すことができます。

参考

[1] 宇宙航空研究開発機構 (JAXA), https://iss.jaxa.jp/kiboexp/theme/first/ice_crystal/kaisetsu_2.html

[2] 大阪教育大学, https://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~masako/exp/newton/kansyoo/kaisetu.html

[3] A-level Physics Tutor, https://www.a-levelphysicstutor.com/wav-light-diffr.php

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