こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?
光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、OpticStudioシーケンシャルモードで必ず目にする、「正規化視野座標と正規化瞳座標」について説明します。
結論
- (正規化)視野座標で物体上の1点を、(正規化)瞳座標で光線の出射方向を決めることで、光学系を伝搬する任意の光線を指定できるようになります。
- 座標を正規化する(最大値を1にする)ことで、光学系の実際の大きさや、視野とアパチャーの定義の違いを意識せずに光線を指定できて便利です。
- 正規化視野座標には円形と矩形がありますが、正規化瞳座標には円形しかありません。
このページの使い方
このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、 シングレット レンズの設計方法 パート2 です。この記事は、OpticStudioのシーケンシャルモードでシングレットレンズ(単レンズ)を設計するプロセスのうち、光学性能を評価する機能を紹介した入門記事になります。また、このページのトピックである正規化座標については、入門ガイド1.4:正規化座標系(Zemax技術記事) も参照してください。
このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。この記事は7番目です。(6)は スポットダイアグラム_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) です。
正規化視野座標と正規化瞳座標(Normalized Field/Pupil Coordinate)
解析機能で光学性能を確認するときや、最適化のターゲットとしてメリットファンクションオペランドを設定するとき、(Hx, Hy, Px, Py) という4つのパラメータが頻出します。(Hx, Hy) が「正規化視野座標」、(Px, Py) が「正規化瞳座標」です。これらの4つのパラメータの役割は、評価のために追跡する光線を特定するためです。ここから、視野座標と瞳座標で光線を特定することと、なぜ視野と瞳の座標を正規化するのかを説明します。
「視野」と「瞳」のおさらい
「視野」は光学系が観察対象として撮像する「物体の大きさ」を示します。視野(システムエクスプローラ)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) も参照してください。視野上の1点が、光線追跡のスタート地点となります。
「瞳(特にここでは入射瞳)」は光線が光学系に入射するときにの「実効的な光学系の入口」となります。入射瞳を満たすように光線を追跡すれば、絞り(光学系を通過できる光量を実効的に制限している開口)を光線が満たします。絞り、入射瞳、射出瞳_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 も参照してください。入射瞳上の1点は、光線が向かうターゲット地点となります。
つまり、視野座標とは光線のスタート座標、瞳座標とは光線のターゲット座標、ということで、1本の光線の選び出す始点と終点になります。視野座標と瞳座標の組み合わせによって、光学系を伝搬する任意の光線を定義できます。
なぜ正規化が必要か
視野座標と瞳座標で光線を特定できますが、なぜ実際の値ではなく正規化が必要なのでしょうか。一つの大きな理由は、その方が私たちの理解が簡単になるからです。オブジェクトの大きさ=視野の大きさ、光学系の入口の大きさ=瞳の大きさは、光学系によってことなります。視野の定義は4種類あって、位置で定義したり角度で定義したり、物体面で定義したり像面で定義したりと、設定方法によって数値が大きく変動します。また、入射瞳は「絞り面より前にある光学系によって結像された絞りの共役像」なので、光学系の最適化中に瞳の位置も大きさも変化します。
”正規化しない”視野座標と瞳座標で光線を特定しようとすると、視野の設定や、最適化のプロセス中に常に座標の値を更新し続ける必要があります。解析機能で光線を指定するときは、電卓を片手にとても煩雑な処理となってしまいます。そこで導入されるのが”正規化された”座標系となります。
正規化座標
ここでいう正規化とは、数値の最大値が1.0になるように数値を修正することです。具体的には、視野および瞳座標の最大値ですべての数値を割り算します。その結果、視野や瞳のタイプ、大きさに左右されず、常に同じ数値を用いて単一の光線を選択できます。正規化座標のおかげで、他の光学系との比較も直感的にできるようになります。メートル級の望遠鏡と1インチの対物レンズでも、正規化視野座標、正規化瞳座標であれば、どちらも -1~1 の間で光線を特定できます。
円形視野座標と矩形視野座標
正規化視野座標には、円形座標と矩形座標が用意されています。検討中の光学系に応じて使いやすい方を私たちが選択できます。一般的には、軸対称の光学系の場合は円形座標を使います。軸外し系で、かつ物体や像面の形状が矩形で決定している場合に矩形座標を使います。
ちなみに、瞳には正規化矩形座標はありません!正直、あまり深く考えたことがありませんでしたが、瞳座標を矩形で正規化するのは役に立たないオプションなのでしょうか??単純に考えれば、絞りが矩形な特殊な光学系だった場合、円形瞳座標でサンプリングするのは非効率なように思います。とはいえ、機能として追加されていないのであれば、ユーザからの要望がない(もしくは少ない)のでしょうか。
正規化(視野, 瞳)座標を用いた光線の特定
繰り返しとなりますが、改めて正規化視野座標と正規化瞳座標を用いた光線の特定について説明します。視野座標が光線のスタート地点、瞳座標が光線のターゲット地点となります。線は、始点と終点が決まれば一意に決めることができるので、視野座標と瞳座標で1本の光線を特定できます。光線を定義するパラメータは他に、波長、パワー、偏光などがあり、OpticStudioでは別の場所でそれらを設定します。
ただ、ほとんどすべての光学系で、視野と瞳の大きさは異なり、定義の単位が異なることもあります。そのため、光線を指定するときの混乱や苦労を避けるために、それぞれの最大値で割り算して、1.0を最大値に取った(正規化した)値で視野座標と瞳座標を指定します。
光線追跡では、指定された視野座標から、指定された入射瞳座標をめがけて光線が出射され、絞りよりも前にある光学系によって屈折・反射をしながら、絞り面に到達します。この時、絞り面上の光線の座標は、(収差がなければ)指定された入射瞳座標に対応する位置になります。最終的に光線は像面まで追跡され、解析機能やオペランドが求める結果を出力します。
まとめ
ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、 シングレット レンズの設計方法 パート2 で紹介される解析機能を紹介する前段階で、OpticStudioのシーケンシャルモードの機能で必ず使用される「正規化視野座標と正規化瞳座標」について説明しました。次回は、正規化座標の知識も使いながら、 「横収差図」について説明します。
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