光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、2022年11月~2023年1月に発表された光学関連のニュースを取り上げ、OpticStudioとのつながりや、筆者の個人的なコメントを加えます。参考にしているページは、オプトロニクスオンライン、Optics.org、Laser Focus Worldなどです。
AR/VR関連
シャープがVR用HMDのプロトタイプを発表しました。先に開催されたCEC(会場近くのプライベートブース)で下図のプロトタイプ(よりも少し地味な色合いのデバイス)が展示されました。外界が透けて見えるシースルー型ではなく、パンケーキレンズを用いたヘッドマウントタイプで、薄型と軽量性を実現しています。詳しい解説記事を こちら(4Gamer.net様) で参照することができます。シャープ以外にも、Panasonic、HTC、TCL、Lumusなど、CEC 2023には多くのAR、VR関連の発表があったようです。
パンケーキレンズは、眼前にあるディスプレイの虚像を拡大して網膜上に結像する光学系です。虚像を見る光学系については、虚像とバーチャルプロパゲーション_HUD (Head Up Display) (1) を参照してください。Opticaのオープンアクセスの論文 などで、パンケーキレンズ光学系の構成を確認できます。
盛況な報道がある一方、AR/VR業界で見逃せないのが、Microsoft、Apple、Metaの動向です。特にMicrosoftがHoloLens部隊を解散させるニュースが大きく報じられている通り、AR/VR関連の活動を停止、もしくは縮小する動きが見て取れます。その理由として、ビジネスインサイダー様の記事 では「需要がない」が挙げられています(笑い事ではないけど、笑)。
新製品関連
ジャパンディスプレイ、液晶で配光制御可能な照明を発売 (OPTRONICS)
AGC、4Kパネル用「アンチグレアガラス」を開発 (OPTRONICS)
ウシオ電機、最広温度範囲の405nm/175mWのLD発売 (OPTRONICS)
ジャパンディスプレイの「LumiFree」は、同社がディスプレイ業界で培った技術を活用した液晶技術を用いて、配光特性を制御します。ニュースリリース ではYouTubeのデモ動画を見ることができます。照射エリアを楕円形状で制御できるようですが、サーチライトのように照明場所を変えられると、照明器具の設置の自由度はさらに上がると思いました。
AGCが開発した新AGガラスは、特殊な機械的加工によって、より均一な表面の凹凸形状を実現し、防眩性とギラツキを抑制することに成功しました。この製品は、2023年前半に発売開始を予定しています。少し前までは、映り込み像をぼかすためのアンチグレアも多かったですが、最近のテレビなどは光を散らすアンチグレアよりも、反射率を下げたグレアディスプレイが多いような気がします。こういった最終的な見え感を事前に把握することが今後のシミュレーション技術の課題となりそうです。
ウシオ電機の新しい光源は、動作温度の広さに特徴を持ったシングルモードの紫外LD「HL40163MGシリーズ」の新製品情報です。その範囲は、-5度から+85度となっており、ビーム形状のアスペクト比も低く抑えられています。ニュースリリース には遠視野(FFP: Far Field Pattern)が載っているので、非点隔差なし_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (1) を参考にOpticStudioでモデル化できそうです。
研究開発関連
ジャパンディスプレイと日立製作所、映像とデプスマップの同時取得技術を開発 (OPTRONICS)
産総研ら、射出成形と成膜でワイヤグリッド偏光素子を作成 (OPTRONICS)
日立造船、深紫外LEDの各種ウイルスへの効果を確認 (OPTRONICS)
ソニーセミコンダクタソリューションズとNEC、物流業界向けエッジAIセンシング実験 (OPTRONICS)
京都大学、高効率なナノアンテナ蛍光体を開発 (OPTRONICS)
大阪大学、青色レーザによる害虫撃墜技術を開発 (OPTRONICS)
ジャパンディスプレイと日立が開発した映像とデプスマップ(距離マップ)の同時取得技術は、一般的なカメラのレンズの前に特殊パターンを表示する液晶パネル(ジャパンディスプレイ担当)を組み合わせて、映像から光学的物理量を抽出してデプスマップを生成(日立製作所担当)します。デプスマップの取得原理は、基本的にボケ量の大きさですが、ここに液晶パネルパターンを重畳させることで演算精度を高めています。日立のこの技術は結構前から広報されていたような気がします。
産総研、三菱ガス化学トレーディング、住友ベークライト、伊藤光学工業、東海精密工業が、世界で初めて射出成型と成膜工程だけで作成するワイヤグリッド偏光素子を開発しました。従来のワイヤグリッド偏光素子の課題クリアに加えて、射出成型用金型へのナノ構造の形成や成膜性にも大きな可能性を示しました。昨今のAR、VR技術の発展に伴って、微細構造の形成技術も進化しているように思います。いよいよ、幾何光学単体では扱えない領域が光学に広がっていますし、ZemaxというよりAnsys、Synopsys製品の機能進化も、この潮流を促進すると思います。
日立造船は独自に開発した深紫外線照射装置を用いて、280nmLEDを照射して、新型コロナウイルス、インフルエンザウイルス、RSウイルス、日本脳炎ウイルスといった日常生活で感染リスクがあるウイルスへの有効性を確認しました。試験に使用したのは、同社が発売する「ACSTERIA」と思われ、光学ニュースピックアップ (2021/9/20~9/24) で日亜化学のLEDを用いた製品として取り上げました。深紫外光の対ウイルスの有効性実証の報告は、今後も定期的に確認できそうです。
ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)のエッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS」とNECの空き棚スペースを可視化するソリューションを組み合わせた実証事件が開催されました。SSSのセンサ「IMX500」は撮像からAI検知までをカメラ側で行う、SSS関連のニュースではおなじみのエッジデバイスです。次は何を一緒に検知してくれるのでしょうか。
京都大学のナノアンテナ蛍光体は、指向性のある蛍光を放ちます。一般的に蛍光はランバーシアン散乱(どこから見ても輝度均一)で、シミュレーション上でもそう設定する場合が多いです。今回の発表では基板表面に作成されたナノアンテナによって光が前方に集められます。波長や偏光依存性が気になるところです。成果の肝はアンテナの材料で、低吸収材料である二酸化チタンが選択されました。この研究室はフォトニック結晶レーザを用いた高出力化でも成果を出しており、光学エンジニアとしても興味深いです。
大阪大学の研究は、害虫を追尾してレーザで撃墜するシステムの開発です。蛾を撃墜するにはどの程度パワーが必要なのかと思ったら、課題は「低出力で局所的な照射(一撃で打ち抜くため?)をするために急所を発見すること」とのことで、「そっちか~」と思いました。海外の光学ニュースを見ていると、軍事的なレーザ兵器のトピックがどうしても目立ってしまいますが、日本らしさも感じる本研究、今後の展開に期待したいです。
自動車関連
日亜化学工業、インフォニオンテクノロジーズ、ADB用マイクロLEDソリューションを開発 (OPTRONICS)
日亜化学とインフォニオンが共同開発した、ヘッドライト用に16,384個のマイクロLEDを搭載した高解像度ライトソリューション、「μPLS: マイクロピクセルライトソリューション」を発表しました。ADBはAdaptive Driving Beamの頭文字で、入ビームの配光を自動的に変えることで、対向車のドライバを眩惑することなく照射範囲を広げる技術です。現在のマイクロミラー(DMD?)ベースのマトリックスライトソリューションと比較よりも、広い視野角と光量を実現できます。ドライバーを誘導するマークを道路上にも投影できるとのことで、HUDの役割の一部をヘッドライトが担うかもしれません(明るいと視認できないかも?)。自動車メーカーの設計と生産の複雑さを大幅に軽減するメリットがありますが、こと光学設計に絞ってみると、より緻密な設計が要求される気がします。
まとめ
このページでは、2022年11~2023年1月に発表された光学関連情報から、11件をピックアップしました。筆者の知識レベルで取り上げられるネタは制限されますが、これからも気になった情報をご紹介したいと思います。
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