[69] OpticStudio 22.1 リリース、新機能レビュー

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。2022年1月25日にZemaxソフトウェア一式(OpticStudio、OpticStudio STAR モジュール、OpticsBuilder、OpticsViewer)の新バージョン、22.1がリリースされました。このページでは、OpticStudioの新機能をレビューします。

リリースノートはインターネットで公開

以前はリリースノートをPDFでダウンロードしていましたが、21.3からコミュニティで公開されるようになりました。OpticStudio 22.1の日本語版のリリースノート(Zemaxコミュニティ) を参照してください。過去のリリースノートも閲覧できます。

OpticStudio 22.1 新機能

このページではリリースノートを情報源に、筆者が詳しく知らないOpticStudioの追加モジュールとなるSTARモジュールとOpticsBuilderは割愛して、OpticStudio 22.1で注目の新機能についてレビューします。筆者個人の主観が入っているのであくまで参考までとして、詳細は公式の情報を参照してください。

広角レンズ設計用に強化されたレイエイミング

過去バージョンの「新機能の試行」で、試験的に搭載されていたベータ機能の正式リリース版になります。ベータ版と正式版とで機能差もあるようです。おそらく、今回のリリースの最大の注目機能です。

「強化された(Enhanced)」レイエイミング、という言葉がさす通り、「通常の」レイエイミングもあります。少し分かりにくいですが、「通常の」レイエイミングの中に、「強力な(Robust)」レイエイミングがあります。ざっくり3つのレイエイミングがあることに?

  • (通常の)レイエイミング (Ray Aiming): 既存機能で、スピード重視のレイエイミング。
  • 強力なレイエイミング (Robust Ray Aiming): 既存機能で、精度重視のレイエイミング。
  • 強化されたレイエイミング (Enhanced Ray Aiming): 新機能で、既存機能の課題を改善したレイエイミング。

視野全角が180度を超えたり、非球面を多用したような光学系では、既存の強力なレイエイミングを使っても期待通りに機能してくれない場合がありました。特に、レイエイミングを有効にした最適化中に光線追跡に失敗して、エラーメッセージで最適化が停止する現象には頭を抱えることもありました。

強化されたレイエイミングが、この問題を解消している機能であることに大変期待しています!

図 69-1 強化されたレイエイミングのオプション。Introduction to Enhanced Ray Aiming and Ray Aiming Wizard (Zemax技術記事、英語) から引用。

リリースノートには、「回転対称の広い視野を持つシステムをサポート」とあります。この文章からは、レイエイミングが必要になるもう一つのケース、軸外し系は完全にサポートされていないと読めます。そういう意味で、このレイエイミング機能のさらなる改善が期待されます。

いろいろなオプションを搭載しており、よりOpticStudioが正しい光路を探し出してくれる機能と見受けられます。ただ、オプション名を見ても、何をする機能なのかわからないのが少し気になります。Fall Back Search? Advanced Convergence? まずは触ってみて、勉強していきたいと思います。

1/30日現在は英語のみですが、強化されたレイエイミングと関連機能であるレイエイミングウィザードの機能紹介を発見しました。Introduction to Enhanced Ray Aiming and Ray Aiming Wizard (Zemax技術記事、英語) も参考にしてください。

光ラーニングでは、まだレイエイミングを取り扱っていません。これを機に、既存のレイエイミングと強化されたレイエイミングについて、もっと勉強して投稿したいです。

RCWA DLLのアルゴリズム改善、FFFの実装

OpticStudioの最上位エディション、サブスクリプションのPremiumエディションでのみ使用できるRCWA DLLの機能改善です。

RCWAは、表面がギザギザした回折格子の実際の形状によって決まる回折効率を計算する、波動光学的な解析手法です。OpticStudioの回折光学素子(DOE)は基本的に、回折光線の方向と位相変化だけを適用する理想面で、回折効率は考慮できないです。ナレッジベースまとめ_OpticStudioでの回折面の取り扱い を参照してください。

このRCWAは特別で、回折面に入射した光線の情報をDLLに渡し、各次数への回折光の情報を返し、OpticStudioの回折光線に変換します。

今回の機能追加では、RCWAに高速フーリエ分解(Fast Fourier Factarazation)が実装されたとのことです。RCWAそのものに明るくないので、FFFのアルゴリズムははっきり言ってさっぱりわかりませんが、効用としてはRCWAの収束性が大幅に改善したとこのことです。

RCWA DLLの機能強化については、OpticStudio grating tools beta function update history (Zemaxコミュニティ、英語) でも知ることができます。金属を含む回折格子の効率計算において、FFFが強力な収束性を示していることが報告されています。金属コーティングを使用した回折格子を検討しているユーザにとっては重要な機能となりそうです。

図 69-2 RCWA DLLの新機能(?) Fast Fourier Factarization による最大次数と回折効率の関係。低い最大次数ですぐに収束する。

プロジェクトディレクトリでサポートされるファイルの追加

OpticStudio 21.3で追加されたプロジェクトディレクトリでサポートされるファイルが追加されました。プロジェクトディレクトリについては、OpticStudio 21.3 リリース、新機能レビュー で軽く触れています。

ファイル管理の合理化のために追加されたプロジェクトディレクトリ、皆様は使われていますか?もしかしたら、積極的には使っていなかったり、気づかずにフォルダが作成されていて驚いた方がいるかも。筆者は今のところ、機能の恩恵を感じるシーンに出会ったことはありませんが、他メンバーとの連携などで役に立つかなと期待しています。

ところで、新しくサポートするファイルを教えてくれるのはありがたいのですが、できれば「いまはサポートしていない」ファイルを一緒に記載してくれるとありがたいかもしれません。

「サポートしているのを知らなかった」のはダメージ少ないですが、「サポートしていると思っていたらサポートしてなかった」は思わぬダメージを負うかも?

新機能の試行: 難解なレイエイミングの設定を補助するレイエイミングウィザード

上でも紹介した、強化されたレイエイミングの設定を補助する機能です。ヘルプタブにある「新機能の試行」から有効にする必要があります。機能自体が見落とされがちですので是非チェックしてください。

この機能は、レイエイミングを自動的に設定する機能ではなく、「レイエイミングをこんな感じに設定すると、適切な光路を発見できると思うよ」といった推奨設定を返してくれる機能です。この機能を使えば、強化されたレイエイミングのオプション群が、裏で何をやっているか具体的に知る必要はないのかもしれません。

自動車関連や監視システム、スマートフォンカメラの高性能化など、広角レンズへの需要はますます増えるでしょうから、これからもレイエイミング機能の進化に期待したいと思います。

ZOS-API: MATHMATICA のボイラープレートコードを提供

MATHMATICAとOpticStudioの連携を簡単に行うためのサンプルコードが追加されました。筆者はMATHMATICAの経験が全くないので恩恵は受けられませんが、「MATLAB、PythonよりMATHMATICA」というエンジニアには朗報です。

Zemax製品とSOLIDWORKSの連携停止

機能追加ではなく機能削除になりますが、SOLIDWORKSとOpticStudioの連携が22.1から使用できなくなります。組織の事情によるもののようですが、連携機能を積極的に使用していたユーザにとってはインパクトが大きいニュースになります。

SOLIDWORKSのネイティブファイルを介したダイナミックリンクが使用できなくなるため、それらの形状ファイルはSTEPやIGESでOpticStudioに渡す必要があります

図 69-1 CADとOpticStudioの連携のオプションが一つ減った。チームによってはインパクトが大きいかも。

まとめ

2022年1月25日にリリースされたZemaxソフトウェアの最新バージョンから、OpticStudio 22.1の新機能をレビューしました。強化されたレイエイミングの効果が気になるところです。自分には関係なさそうな機能でも、光学業界のトレンドを感じる意味でも、いろいろと眺めてみると興味深いです。

ZemaxがAnsysに買収されて、SynopsysがCodeV / LightTools の直販を始めて、Zemax製品とDassault (SolidWorks)の連携が終了して、DassaultとSynopsys (CodeV, LightTools)が連携を始める、といった光学シミュレーションソフトの業界再編が行われた印象でした。2022年もいろいろな変化があるかもしれません。よく使うソフトウェアや機能に、企業の事情が影響してこないことを祈るばかりです。

コメント

タイトルとURLをコピーしました