[9] ノンシーケンシャル光線追跡_OpticStudioのノンシーケンシャルモードについて (1)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、OpticStudioの「ノンシーケンシャル光線追跡」について、対となるシーケンシャル光線追跡との違いと併せて説明します。

結論

  • ノンシーケンシャル光線追跡は、光線が到達する順番が任意の光線追跡です。エディタの設定したオブジェクトの行数によらず、三次元空間上のオブジェクトに光線が到達すれば、屈折反射などの光学現象が計算されます。
  • ノンシーケンシャル光線追跡はシーケンシャル光線追跡よりも大幅に計算時間を要しますが、予測が困難な経路を通る光線を追跡できるため、照明解析や迷光解析で多く利用されます。

このページの使い方

このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、OpticStudioのノンシーケンシャルモードについて です。 この記事は、OpticStudioのノンシーケンシャルモードがいかに幅広い光学現象をサポートできるかを紹介した入門記事になります。

OpticStudioのノンシーケンシャルモードをこれから使用する方や、OpticStudioそのものにこれから挑戦する人に参考になる内容が含まれています。このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。

ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。そのため、この記事のタイトルには (1) をつけています。続きの (2) は こちら (純粋なノンシーケンシャルとは?)です。

ノンシーケンシャル光線追跡 (Non-sequential Ray Tracing)

このページは、「ノンシーケンシャル光線追跡」について、「なんとなく意味は分かるけど、他の人に説明するのは難しい」という状況から、「細かいところは置いといて、要するにこういうことだよ」という状況を目指しています。

大前提として、OpticStudioは幾何光学を基盤とした光線追跡ソフトウェアになります。OpticStudioには、「シーケンシャルモード」と「ノンシーケンシャルモード」の2つの光線追跡アルゴリズムが搭載されていますが、どちらも幾何光学を基盤にしていることは同じです。「幾何光学」と「シーケンシャル光線追跡」については、幾何光学とシーケンシャル_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (1) もご参照ください。演算エンジンも同じものを使っているので、2つのモードで同じ光学系を設定すると、1本1本の光線追跡の結果 (光線の位置や角度) は一致します。

光線が見える世界が違う

ノンシーケンシャル光線追跡は、シーケンシャル「ではない」光線追跡です。シーケンシャルとノンシーケンシャルの違いという観点から、ノンシーケンシャル光線追跡について説明します。

シーケンシャルモードは、あらかじめ決められた光学面の「順序に従って (=シーケンシャルに)」光線が追跡されます。そのため、図 9-1 のような光学系をモデル化するとき、光線を追跡する順番をA→B→Cと私たちが決めた場合、赤色光線のようなBとCを通らずに次のレンズに到達する光線はエラーになります。

一方、ノンシーケンシャルモードは、光線を追跡するオブジェクトの「順序は決められていない (=ノンシーケンシャル)」ので、シーケンシャルでは追跡されない赤色光線も正常に追跡されて、C以降のレンズに到達できます。

図 9-1 シーケンシャルモードではNGの赤色光線は、ノンシーケンシャルモードではOKの光線になる。

この違いを理解するために、「光線が見える世界が違う」という解釈は1つの助けになるかもしれません。シーケンシャルモード内の光の粒 (光線を描いている幾何光学上の光の姿) が見える世界と、ノンシーケンシャルモード内の光の粒が見える世界は、それぞれ図 9-2 のようになっています。

図 9-2 シーケンシャルの世界では次に到達する面 (光学面) が決まっていて、面ごとに到達したかどうかの判定が行われる。

シーケンシャルモード内の面Aから出射した光の粒 (図 9-2 左) には、面Bしか見えません (エッジも見えないことも大事です)。面Bに入れなかった光の粒の軌跡 (光線) はそこで終端されます。この追跡方法は継続され、面Bからは面Cしか見えませんし、面Cからは次のレンズの前面しか見えません。

一方、ノンシーケンシャルモード内の面Aから出射した光の粒 (図 9-2 右) には、面Bも面Cも、凹レンズのレンズのエッジも、その先の凸レンズも、言ってしまえば、ノンシーケンシャルモード内部に定義されたすべてのオブジェクトが見えて、光線が到達可能であれば、そのオブジェクトで屈折や反射をします。光線が到達できるオブジェクトがなくなったとき、光線追跡は停止されます。

ノンシーケンシャル光線追跡の停止条件は他に、光線エネルギーの減少、光線セグメント数の上限、何らかの追跡エラーがあります。詳細については、ヘルプファイル、Zemaxウェブサイト、今後の光ラーニングの記事をご参照ください。

ノンシーケンシャル光線追跡は遅い、の実情

よく言われる、「ノンシーケンシャルはシーケンシャルよりもかなり遅い。」というのは、2つの理由が合わさっています。ここでは、1本の親光線から複数の子光線を生成する、偏光や散乱による「光線の分割」は考慮しません。

① 光線がオブジェクトに到達しなくなるまで追跡するので、1本あたりの光線追跡に時間がかかる。

② 有用な解析結果を得るために追跡する必要がある光線本数が、シーケンシャルモードの100倍以上。

どちらもノンシーケンシャルモードの計算時間に影響を与えますが、個人的には②によるところが大きいと感じています。シーケンシャルもノンシーケンシャルも、どちらも幾何光学を使う以上、光線追跡そのものは同程度の速度で処理されます。一方で、光学解析のために追跡される光線本数は大きく違います。例えばシーケンシャルモードの収差図は、1つの条件あたり2~30本ほどの光線追跡でよい精度の結果が得られます (図 9-3 左 [2])。しかし、ノンシーケンシャルモードで散乱や照明エリアの均一性を解析する場合は、ディテクタでのノイズにも配慮しながら、最低でも10万本は光線を追跡する必要があります (図 9-3 右)。

図 9-3 シーケンシャルモードの光路差図(左)とノンシーケンシャルモードの散乱光線の分布解析(右)

「ノンシーケンシャルモードで見たい結果を見るのに時間がかかることに変わりないでしょ?」と言われれば、その通りです!だからこそ、シーケンシャルモードとノンシーケンシャルモードの使い分けは作業効率の面で重要になります。時間のことを考えると、できるだけシーケンシャルモードで解析するに越したことはありません。ただ、照明系の検討をシーケンシャルモードで取り扱うには、光学理論の裏付けが必要になります。

ノンシーケンシャル光線追跡の使いどころ

光線が追跡されるオブジェクトの順番を規定せず、可能性のある経路をすべて考慮できる点はノンシーケンシャルモードの本質であり、大きな強みです。その恩恵を最大限に得られる場面と言えば、「予測困難な経路を含めた解析が必要なシミュレーション」になると思います。極端な話、光線が通るであろう経路がすべて判明しているのであれば、作業がきわめて面倒になることは横において、シーケンシャルモードで設定は可能です。「少し離れたオブジェクトでの思いもよらない反射や散乱が、ディテクタ上の光線分布にどのような影響を与えるか」、このような解析はシーケンシャルモードでは決して取り扱えません。

他には、やはり照明系の設計・シミュレーションです。なぜノンシーケンシャルモードが照明系に適しているかと言われると、それは光源設定の冗長性によるところも大きいと筆者は考えています。シーケンシャルモードは通常、点光源で光線の角度分布も基本的なものに限定されます。それに対して、ノンシーケンシャルモードで設定できる光源は、有限の発光面積とそのエネルギー分布、そして角度空間でのエネルギー分布をより複雑に設定できます。照明系のシミュレーションの精度は、光源モデルの忠実性が最も重要になります。この内容については、また別の機会で説明したいと思います。

まとめ

ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、 OpticStudioのノンシーケンシャルモードについて から、「ノンシーケンシャル光線追跡」がどういうものか、シーケンシャル光線追跡との違いという観点から説明しました。

次回は引き続き、「ノンシーケンシャル光線追跡とは」から、「純粋なノンシーケンシャル光線追跡」について説明します。

<参考>

[1] https://www.ccs-inc.co.jp/guide/column/light_color/vol16.html

[2] Zemaxナレッジベース, OpticStudioのシーケンシャルモードについて より抜粋

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