[97] ビネッティングファクタが解析結果を変える_Zemaxコミュニティ注目トピック (23)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、Zemaxコミュニティで注目されているトピックから、ビネッティングファクタを適用することで解析結果が受ける影響と、主光線の定義との関係性について取り上げます。

Zemaxコミュニティについては、こちらのページ で概略を説明しています。

結論

  • ビネッティングファクタを適用すると、変形した実効的な入射瞳を楕円でフィッティングするので、光学系を通過できる光線のサンプリング漏れが発生し、解析結果の精度が低下します。
  • ビネッティングファクタで変形した楕円ビームの中心を通る光線が主光線になり、ビネッティングファクタがない時の絞りの中心を通る光線を主光線とする定義から変わるので、ディストーションなど主光線を参照する解析機能の理解に注意が必要です。
  • 基本的にビネッティングファクタは最適化用の機能なので、光学性能を確認する解析機能を使用するときはビネッティングファクタを除去します。

このページの使い方

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。

興味を持ったトピックに質問やコメントをしてみると、世界のOpticStudioユーザやZemaxエンジニアからの回答があるかもしれません。

ビネッティングファクタは解析結果と主光線を変化させる

トピックへのリンク:

周辺光量比とMTFを計算するときビネッティングファクタを除去すべき理由 (Why vignetting factors should be removed when calculating Relative Illumination and MTF)

ディストーションとビネッティング (Distortion and Vignetting)

光ラーニングでは最近、OpticStudioシーケンシャルモードで使用できるビネッティングファクタに関する説明ページを追加してきました。今回は、それらのページの続きともいえる内容となっているので、以下も参照してください。

ビネッティングとは_ビネッティングファクタの使い方 (1)

ビネッティングファクタの効果_ビネッティングファクタの使い方 (2)

ビネッティングファクタは最適化用_ビネッティングファクタの使い方 (3)

解析機能ではビネッティングファクタは除去が基本

OpticStudioシーケンシャルモードには、「ビネッティングファクタを除去する」オプションを持った解析機能があります。また、そのオプションはデフォルトで有効になっています。つまり、視野データエディタでせっかく設定したビネッティングファクタを、解析機能は「基本的には不要」としています。その背景は、ビネッティングファクタを使用する理由が「基本的には最適化を効率的に行うため」であって、解析機能を対象としていないことにあります。

むしろ、解析機能で光学性能を確認するときビネッティングファクタが有効になっていると、光学性能を正しく評価できないリスクがあるので、「ビネッティングファクタを除去する」オプションを無効にするときは注意が必要です。

ビネッティングファクタの自動設定機能

ビネッティングファクタを設定するとき、ほとんどのケースではOpticStudioの自動設定機能を使用すると思います。その機能によって生成される光線がどう変化するか、周辺光量比とMTFを計算するときビネッティングファクタを除去すべき理由 (Why vignetting factors should be removed when calculating Relative Illumination and MTF) の説明は分かりやすいです。アルゴリズムについては、ビネッティングファクタの使い方(2)も参照してください。

例えは、結像系のアパチャーサイズを制限して、軸外視野での光線がケラれている状態を作ります。その時、絞り面を通過している光線の形状は円ではなくなり、上の部分が三日月状に削り取られます。

図 97-1 右が光学系の最後の面アパチャーで光線を遮蔽した状態。光学系内部にある絞り面を光線が満たしていない。
図 97-2 絞り面のフットプリントダイアグラムで、軸外視野からの光線が通過できる範囲を出力した結果。

この状態は、軸外視野から光学系を覗き込んだとき、絞りの共役で光学系の実効的な入口となる入射瞳の形状もまた、円から三日月部分が削られた形状になっています。絞りと入射瞳の関係は、結像光学系でとても大切な考え方になります。絞り、入射瞳、射出瞳_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 (1) を参照してください。

そして、ビネッティングファクタの自動設定機能の目的は、①円から三日月部分が削り取られた入射瞳にめがけて、②円の中心位置をシフトさせて(VDXY)、長軸短軸方向を圧縮して楕円形状にして(VCXY)、さらに楕円を回転させる(TAN)ことで、③変形した入射瞳をなるべく楕円でカバーすることです。

図 97-3 ビネッティングファクタは、光学系を通過できるビーム形状を楕円で表現する。

この、「(楕円とは限らない)変形した入射瞳」を「楕円でなるべくカバーする試み」で発生する、「楕円でカバーしきれない領域」が、光学性能の解析結果に影響を及ぼします。下図は、三日月部分が削られた絞りでの光線分布(緑色線)を、ビネッティングファクタを駆使した楕円(赤色)でカバーしようとした結果を示しています。赤色の線がカバーできていない領域が左右の上側に発生しています。

図 97-4 ビネッティングファクタによる変形した入射瞳フィッティングの限界。

このカバー漏れは、実際の光学系では通過して光学性能に寄与する光線なのに、ビネッティングファクタを有効にしたことで生成されない領域になります。そのため、OpticStudioの解析結果は現実の光学系から離れてしまいます。光学系や解析機能によっては、過大評価になるときもあれば過小評価になるときもあります。

周辺光量比など解析結果への影響

図 97-4を見ると、「確かに完全にカバーはできていないけど、あんまり影響はないんじゃない?」と感じるかもしれません。実際、ケラれる量が少ないとか、変形した入射瞳が楕円に近い形だからカバーしやすい場合は、カバー漏れの光線の影響は少ないかもしれません。

しかし、コミュニティで示されたビネッティングファクタの有り無しでの解析結果の比較では、有意な差になっているように見受けられます。ビネッティングファクタを有効にしている場合、カバー漏れの光線が計算対象から抜けるためか、周辺光量比が先に落ちています。

図 97-5 周辺光量比。ビネッティングファクタあり (w/ vig) は入射瞳を楕円で不完全にサンプリングした光線に基づいた結果。

ビネッティングファクタによる主光線の再定義

このトピックには、ビネッティングファクタの設定に伴う主光線のズレに関するコメントがありました。曰く、ビネッティングファクタを使用すると主光線がズレるので、主光線に基づいた解析は不正確になる可能性がある、というものです。

これは重要なコメントになります。まず、OpticStudioのもともとの主光線の定義は「物体面上でサンプリングされた点光源から光学系に入射する光線のうち、近軸入射瞳の中心をめがけて生成される光線」です。主光線、マージナル光線_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 (2) を参照してください。

図 97-6 OpticStudioの主光線。近軸入射瞳の中心に向けて出射した光線は、絞り面の”ほぼ”中心を通過する。

入射瞳が円形の場合は問題はありませんが、ビネッティングファクタのディセンタ(VDXY)が設定されて入射瞳の中心がずれた場合はというと、OpticStudioの主光線はずれた入射瞳の中心を通る光線になります。

例えば、光学系の最終面にディセンタした円形アパチャーがあったとします。すると、軸上視野で見ても、図97-4 のように入射瞳の上が削られます。ビネッティングファクタの自動設定機能を使用すると、下方向にシフトした楕円に入射瞳が変形されます。この時、もともとのビネッティングファクタを使用する前の主光線の位置は近軸円形入射瞳の中心ですが、ビネッティングファクタを使用した後の主光線の位置はシフトした楕円の中心になります

図 97-7 ビネッティングファクタでディセンタが設定されたとき、主光線が入射瞳(絞り面)の中心ではなくなる。

主光線に基づいた解析機能の代表例としては、ディストーションや主光線中心のスポットダイアグラムがあります。ビネッティングファクタとディストーションについての参考になるディスカッションが、ディストーションとビネッティング (Distortion and Vignetting) にありました。光ラーニングでも、今後取り上げたいと思います。

主光線の定義の注意点

OpticStudioはディセンタのビネッティングファクタを使用すると主光線の位置がシフトしましたが、これはあくまで「OpticStudioがそういう定義を採用している」に過ぎず、光学業界全体に通じる定義ではないことに注意してください。特に、主光線はディストーションなど光学系の最終仕様にもなっている光学性能の計算に用いられる重要な光線です。

怖い話ですが、OpticStudioでは仕様を満たしているのに、CodeVで全く同じ光学系を設定して使用を確認すると仕様を満たしていない、ということも起こりえます。厄介な点は、「(バグを除けば、)どちらかが正しくて他方が間違っている」のではなくて、「どちらも、それぞれの定義に従った正しい結果を出力している」ことです。私たちユーザは、その定義やら前提やらを理解したうえで出力結果を読み込む必要があります。

作成したレンズが示す光学性能は1つなので、どちらの定義がより現実の光学性能に近い結果を返すか、というのが論点になります。

ビネッティングファクタを無効にできないケース

解析機能で「ビネッティングファクタを取り除く」オプションを無効にする、つまりビネッティングファクタを使う必要があるケースはあります。

1つは、非点隔差なし_シーケンシャルモードでレーザダイオード(LD)を設定する方法 (1) で紹介したような、ビネッティングファクタでビーム形状を意図的に変形させている場合です。

もう1つは、ビネッティングファクタで設定した楕円の外側の光線が異常な方向に飛んでいくような場合です。これは、高次の非球面を使用している場合に起こりがちです。だからと言って、ビネッティングファクタを有効にするのが正しい手段なのかは疑問が残りますので、あくまで私たちユーザの慎重な判断が必要になります。

まとめ

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿された「周辺光量比とMTFを計算するときビネッティングファクタを除去すべき理由」を取り上げました。ビネッティングファクタを使用すると、レイアウト図で見たとき光線がきれいに光学系を通過しているように見えるので、ついつい解析機能を使用するときもビネッティングファクタを有効にしたい気がします。が、実際に得られる光学性能により近づけるには、通過できる光線を正しく考慮する必要があり、いくつかの例外を除いて、ビネッティングファクタは無効にするのが正しい選択になります。

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