[11] 混合(ミックス)モード_OpticStudioのノンシーケンシャルモードについて (3)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、OpticStudioの「混合(ミックス)モード」について説明します。

結論

  • ミックスモードは、シーケンシャルモードの内部にノンシーケンシャルオブジェクトを挿入した状態で、全体としてはシーケンシャルモードとして動作します。
  • 複雑な形状のプリズム、CADオブジェクトをシーケンシャルモードの解析機能と併用できて便利に思えますが、いくつか使用上の注意点があるのでヘルプファイルを確認する必要があります。

このページの使い方

このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、OpticStudioのノンシーケンシャルモードについて で、3番目の記事になります。1番目の記事は こちら (ノンシーケンシャル光線追跡とは?)、2番目の記事は こちら (純粋なノンシーケンシャルとは?) になります。

OpticStudioのノンシーケンシャルモードをこれから使用する方や、OpticStudioそのものにこれから挑戦する人に参考になる内容が含まれています。このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。

混合(ミックス)モード (Mixed Mode) の注釈

このページでは、「混合(ミックス)モード」について、技術記事で使用されている用語について説明を加えていきます。 なお、ミックスモードを単独で取り上げた技術記事があります。シーケンシャル/ノンシーケンシャル混合光学系のモデル化方法 です。具体的な設定方法や、使用する上での注意点について詳細に説明されています。内容としては、OpticStudioに慣れていない人には少し難しいかもしれませんが、とても有用な記事になっているので参照してみてください。

ミックスモードはシーケンシャルモードの仲間

ミックスモードの建付けは、シーケンシャルモードの途中にノンシーケンシャルモードを挿入した状態です。つまり、光学系全体としては、シーケンシャルモードに分類できます。シーケンシャル光線追跡については、[2] 幾何光学とシーケンシャル_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (1) もご参照ください。

ミックスモードを使用する場合、「入射ポート」と「射出ポート」という仮想的な出入り口をシーケンシャルモードに設置します。ミックスモードの光線追跡プロセスは以下の通りです。

  1. シーケンシャルモードのシステムエクスプローラで定義された点光源から光線を出射
  2. 入射ポートを通過できた光線はノンシーケンシャルモード用の光線に変身
    • 光線の位置、方向余弦、エネルギー、偏光、波長、すべての情報が引き渡されます。
  3. ノンシーケンシャル空間でノンシーケンシャル光線追跡
  4. 射出ポートを通過できた光線のみがシーケンシャル用の光線に変身
    • 上と同じく、すべての情報が引き渡されてもシーケンシャル空間に戻ってきます。
  5. シーケンシャルモードの像面までシーケンシャル光線追跡

3番目のノンシーケンシャル空間は、ノンシーケンシャルモードのルールが適用されます。すなわち、任意のノンシーケンシャルモードのオブジェクトを、任意の数、任意の順番で定義できます。

図 11-1 シーケンシャルモードに挿入されたノンシーケンシャル空間。便利な機能なだけに、注意点をよく確認しながら使用したい。

ミックスモードの最も大きなメリットとなるのは、シーケンシャルモードの解析機能を、ノンシーケンシャルモードのオブジェクトと組み合わせて使用できる点です。例えば、シーケンシャルモードでは設定するのが難しい複雑な形状の全反射プリズム、不連続な(滑らかにつながっていない)面や、CADで作成されたオブジェクトをシーケンシャルモードで使用できます。こけだけでも、シーケンシャルモードの可能性を大幅に拡張することが期待されます。

ミックスモードを使用するうえでの注意点

高いポテンシャルを持つミックスモードですが、万能とは言えません。機能面の制約や、エラーが出て使えないケースがあり、中にはヘルプファイルには明記されていない場合もあるようです。すべてがヘルプに記載されているに越したことはありませんが、シーケンシャルモードやミックスモードの特徴を理解しておくことで、エラーの要因を予測したり設定の工夫で回避したりが可能になる場合もあります。もちろん、Zemaxに問い合わせるのが王道の対応だと思います。

ここでは、技術記事に書かれている内容と筆者の知見に説明を加えます。

  • 一部のシーケンシャル解析機能の結果が不正確になる場合があります。シーケンシャル/ノンシーケンシャル混合光学系のモデル化方法 でも説明されている通り、光路差図など「近軸近似の計算結果」を使用した解析結果が不正確になりえます。近軸近似の計算とは、光学系をもっとも単純化した形での計算で、多くの解析機能の基準になります。
    ノンシーケンシャルモードのオブジェクトには、この単純化がうまく処理できないものがあります。例えば、CADオブジェクトを光学的に単純化する一般的な方法はありません。すべてのオブジェクトで不正確になるわけではないので、結果の妥当性は私たちが判断する必要があります。「近軸近似」については、またの機会で説明したいと思います。
  • 絞り面をノンシーケンシャル空間に設置できません。シーケンシャルモードに組み込まれてはいますが、ノンシーケンシャル空間の中身はシーケンシャルモードから見ることはできません。そのため、シーケンシャルモードで光線を定義するうえで極めて重要な絞り面を、ノンシーケンシャル空間に含めることができません。
    どうしてもノンシーケンシャルオブジェクトの間に絞り面を設定したい場合は、挿入するノンシーケンシャル空間を2つに分割して、シーケンシャル (物面) > ノンシーケンシャル > シーケンシャル (絞り面) > ノンシーケンシャル > シーケンシャル (像面) と設定します。「絞り面」については、またの機会で説明したいと思います。
図 11-2 近軸計算が不安定になるノンシーケンシャル空間で絞り面を挟むと、入射/射出瞳の計算が意図しない結果になる場合がある。
  • 主光線が射出ポートに到達できない場合はほとんどの機能が使えません。シーケンシャル光線追跡において、主光線は最も重要な光線です。主光線とは、物点から出て絞りの中央を通過する光線です [1]。例えば、主光線がノンシーケンシャルオブジェクトの角(エッジ)に当たると、その後の光線追跡が止まって主光線がなくなります。他の光線も喪失すれば解析結果に影響を及ぼしますが、解析そのものは機能します。一方で、主光線は光線追跡の根幹になるため、追跡エラーは何としても回避します。例えば、主光線がエッジに入射しないよう、ノンシーケンシャルオブジェクトの位置をわずかにずらす、などです。「主光線」については、またの機会で説明したいと思います。
  • その他にも、ミックスモードにはいろいろな制約、ルールがあります。例えば、ノンシーケンシャルの光源オブジェクトの光線はシーケンシャル光線に変身できない、入射ポートや射出ポートをノンシーケンシャルオブジェクトに密着させてはいけない、などです。ミックスモードを使う際には、ヘルプファイルや上で紹介している技術記事を参照することをお勧めします。

まとめ

ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、 OpticStudioのノンシーケンシャルモードについて から、「混合(ミックス)モード」を取り上げ、光線追跡のプロセスと使用上の注意点について説明を加えました。シーケンシャル/ノンシーケンシャル混合光学系のモデル化方法 こちらの記事も参照してください。本ページには、「近軸近似」「絞り面」「瞳」など、重要な光学用語ができました。これらについては、別のページで説明したいと思います。 絞り面、瞳については、絞り、入射瞳、射出瞳_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 (1) を参照してください。

次回は引き続き、「ノンシーケンシャル光線追跡とは」から、 ノンシーケンシャルモードならではのシミュレーション機能について説明します。

<参考>

[1] レンズ屋, 光学サロン: http://www.lensya.co.jp/010/wforum.cgi?mode=allread&no=3129&page=250

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