こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?
光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。 このページでは、光学を始めたときに必ず見聞きして、多くの方がつまづくであろう「絞り」と「瞳」について説明します。
結論
- 絞りは、光学系の中を通過する光を最も少なくするように遮蔽する開口です。
- 入射瞳は、物体側から光学系を覗き込んだときに見える絞りの像で、光学系の実質的な入口です。
- 射出瞳は、像側から光学系を覗き込んだときに見える絞りの像で、光学系の実質的な出口です。
- 物体からの光は、入射瞳を満たすように光学系に入射し、屈折して、光学系内部の絞り面を満たして、さらに屈折して、像面から見ると射出瞳を満たす光が到達しているように見える。
このページの使い方
このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、Display pupils on a layout plot (英語) です。この記事は、OpticStudioのシーケンシャルモードで入射瞳と射出瞳を表示するテクニックを紹介しています。光学系を学習すると、割と序盤に「瞳」というワードが出てきて、重要(便利)な概念です。例えば、サイバネットのサイト を見るとバシッと説明されています。しかし、筆者はコレがいまいち理解ができなくて、ずいぶんと難儀した記憶がありますし、今でも不十分な理解かもしれません。
開口絞り(絞り面参照)より物体側の光学系で結像された開口絞りの像を入射瞳と呼びます。また、物体空間上での主光線をそのまま延長し、光軸と交わる位置が入射瞳位置になります。同様に物体空間の周辺光線をそのまま延長して入射瞳位置での高さが入射瞳半径となります。
入射瞳 : 光学総合サイト : サイバネット
このページでは、「筆者はこう考えることによって、瞳というモノが腹落ちしました。」という内容になります。いま絞りや瞳の壁にぶつかっている方に、ひとつの見方の可能性を示せれば幸いです。
瞳=光学系の実効的な出入り口
「光学系」という建物に、「光」という来客が、「入射瞳」という入口から入って、「射出瞳」という出口から出ていきます。それぞれ、どのように考えられるかを説明していきたいと思います。
光学系は1枚の理想レンズまでシンプルにできる
どんなにたくさんのレンズで構成された光学系であっても、光学系は1枚のレンズにまでシンプルにできます。結像光学系の場合、1つの点光源から出てきた光線が、1つの点像を結ぶようにしたのが光学系なので、理科の教科書に出てきた1枚のレンズと役割は変わりません。多くのレンズを使うのは、点像をできるだけ小さいくしたいとか、波長による点像の大きさの違いを小さくしたいとか、画像のゆがみを小さくしたいとか、よい画質を得るための手段です。
ただ、光学系には取り込める光の大きさと、光学系を出てくる光の大きさが決まっています。
光学設計で考慮されるのは光学系には入れる光だけ
点光源からの光は、あらゆる方向に出射しています。光学系は、その光の一部を切り取って像面まで導きます。そして、シーケンシャル光線追跡では、光学系に入ることができる光線のみを追跡して、それ以外の光線は無視します。1枚レンズの光線を描くとき、レンズの端を通る光線を代表して描くのは、この光学系に入る光の大きさを表現する重要な光線のためです。
絞り面は物理的な光の出入口
では、光学系に入れる光の大きさを制限するものは何でしょうか。それが、「絞り面」です。一見すると、光学系の最初の面、つまり一番外側に見える面が光学系には入れる光のサイズを制限しているように思えます。しかし、光学系を通っていく過程の屈折によって、光の大きさは変わっていきます。そのため、一番外側の面が絞りであるとは限らず、光学系の中を通過する光を最も少なくなるよう遮蔽するのが絞りです。光学系において、実際の物理的な光の出入口は絞り面になります。図 17-3 はYouTube opticsrealmチャンネルの動画からの引用です[2]。このチャンネルはとても有用です。残念ながら更新はストップしています (2021/9/4 参照時)。
余談: 光学設計において絞りの理解を難しくしているのは、絞り面の位置はユーザが自由に決められる、という自由度です。レンズは全く同じ形状でも、絞り面の位置を変えるだけで得られる光学性能は変わります。例えば、テレセントリックレンズは絞りの位置を適切に設定することで達成できます。
テレセントリック光学系については、物体側テレセントリック_Zemaxコミュニティ注目トピック (1) を参照してください。
入射瞳は光学系の実効的な入口
光学設計をするとき、光学系を通過できる光はすべて考慮します。そうでないと、実際の光学性能を評価できないためです。光学系の中で取り込める光の量を実際に決めているのは絞り面ですので、絞り面を満たすように光線を生成することが必要です。
ここで、光学系に入ろうとしている光の気持ちになって考えます。光学系を外から(物体)見たとき、絞り面のホントウの大きさが直接見えているとは限りません。絞り面の前にレンズがあった場合、そのレンズによって大きく見えたり小さく見えたりするからです。図17-4で、虫眼鏡越しに蟻さんを見ても、光には蟻さんのホントウの大きさを知ることはできません[3]。
光が光学系の中にあるホントウの絞りの大きさを光が知っているとします。絞りの前にレンズがあっても気にせずに、ホントウの絞りの大きさに光線を出します。すると、レンズで光の大きさが変わって、絞りを光線で満たすことができなくなってしまいます (図17-5 上側)。
どうすれば、絞りを満たす光線を出せるか。それが「光学系を物面からのぞいた時に見える絞りを満たすように光線を出す」です。この、「光学系を物面からのぞいた時に見える絞り」が入射瞳です。
絞りの前の光学系がどうなっているか知らなくても、ただ見えている絞り(=入射瞳)を満たすように光を出しておけば、絞りの前の光学系で光線は屈折されて、結果的に絞り面を満たすように光線が進みます (図 17-5 下側)。このことから、光学系に入る光にとって、入射瞳は実効的な入口と考えられます。
射出瞳は光学系の実効的な出口
今度は光学系を出ていく光を考えます。考え方は入射瞳と同じです。今回は、光学系から出てくる光を像面で待ち受けているディテクタの気持ちになって考えます。物理的な出口は絞りになりますが、やはり、ディテクタから絞りを見たときは、絞りの後にある光学系によってホントウの絞りの大きさは分かりません。
では、ディテクタから見て光はどのように自分のところ(像面)まで来るかというと、「光学系を像面からのぞいた時に見える絞りを満たした光線がやってくる」です。この、「光学系を像面からのぞいた時に見える絞り」が射出瞳です。
入射瞳と射出瞳は光学系の実効的な出入口 (まとめ)
筆者の絞りと瞳に関する認識は以上のようなものです。光は入射瞳を満たすように光線を出しておけばOK。入射瞳(入口)に入った光線は絞り(物理的な出入口)にワープして、絞りを出た光は射出瞳(出口)にワープする。ディテクタは射出瞳を満たす光線を受けていればOK。
技術記事をもう一度眺めてみる
最後に参考にした技術記事をもう一度見ながら、入射瞳と射出瞳を考えます。瞳の情報は以下の通りです。
- 入射瞳: 最初のレンズの前面から 58.94mm の位置、直径 33.33mm。
- 射出瞳: 像面から -108.06mm の位置、直径 36.26mm。
光は、入射瞳を満たすように光線を出します。光線は絞りの前の光学系で屈折して、結果的に光学系の中にある絞り面を光線が満たします。絞りを通過した光線は、絞りの後にある光学系でして、像面に到達します。像面から見たとき、光線は射出瞳から出てきたように見えます。
まとめ
ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、Display pupils on a layout plot (英語) から、「絞り、入射瞳、射出瞳」について説明しました。 筆者はこの概念、有用性を理解するのにかなり苦労しました。いろいろ考えて、「シンプルになった光学系の中を光線がワープしながら進んでいる」という感じで腹落ちしました。他にも説明すべき点もあるでしょうが、まずは絞りと瞳の概要をお伝えしました。
言葉の定義は1つでも理解の仕方は人それぞれ、ということで、絞りと瞳の理解の助けになれば幸いです。次回は引き続き「Display pupils on a layout plot」から用語をピックアップして説明します。
<参考>
[1] https://www.cybernet.co.jp/codev/product/release/ver103.html
[2] YouTube: opticsrealm, Optical Tutorial 13, https://www.youtube.com/watch?v=1r-8L4kdySI
[3] オリンパス, https://www.olympus-lifescience.com/ja/support/learn/02/033/ の画像を引用
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