こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?
光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、Zemaxコミュニティで注目されているトピックから、「物体側テレセントリック」を取り上げます。
結論
- 物体側テレセントリック光学系は入射瞳が無限遠にある光学系で、像側テレセントリック光学系は射出瞳が無限遠にある光学系。その両方を満たすと、両側テレセントリック光学系と呼ばれる。
- テレセントリック物空間のオプションは、実際の入射瞳の位置を無視して、強制的に入射瞳の位置を無限遠に設定することで主光線を光軸と平行にする。
- テレセントリック物空間のオプションを有効にすることと、物体側テレセントリック光学系を設計することは本質的に関係がなく、設計によって入射瞳が無限遠になるように設計する必要がある。
Zemaxコミュニティとは?
Zemaxホームページに併設されている交流サイトのようなもので、Zemax製品のユーザやZemax社員がオープンで自由な議論を行う場です。リンクはこちらです (https://community.zemax.com/)。 日本語と中国語のローカル言語用ページも用意されていますが、やはり英語での方が議論は活発なようです。
コミュニティのトップページから、General Discussion > Got a question? に進みます。トピックのリストの右上に並べ替えのオプションがあるので、これを Most views や Most replies にすることで、注目度が高いであろうトピックが参照できます。
このページの使い方
このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。
興味を持ったトピックに質問やコメントをしてみると、世界のOpticStudioユーザやZemaxエンジニアからの回答があるかもしれません。
物空間でのテレセントリック (Telecentric in object space)
トピックへのリンク: https://community.zemax.com/got-a-question-7/telecentric-in-object-space-60
質問は、「物空間テレセントリック光学系の焦点面に絞り面を設置する方法は?」と「物空間テレセントリック(Telecentric Object Space)」のオプションはいつ有効にすればよいか?」の2点です。
ディスカッションの内容
1点目の質問は、筆者にとってはやや要領を得なかったです。これに対して、ZemaxのエンジニアAngelさんからの回答は「絞り面の位置はユーザが任意の面に指定できます。」と「物体側テレセントリック光学系にするには、入射瞳の位置が無限遠になるようにします。」でした。これは、どちらも大切なことを説明しています。
2点目の質問に対する回答は、「まず視野の設定が”角度”になっていると、オプションがグレーアウトして使えないので要確認です。」「物体面が有限遠の時に使いましょう。」「一般的にこのオプションは、ディスプレイやファイバから出射する光のモデル化に使用します。」でした。ちなみに、物体面が無限遠にあるときでも、視野タイプが近軸 / 実像高の場合はテレセントリック物空間のオプションを選択可能でした。無限共役の物側テレセントリックは、トライしたことも考えたこともないのですが、現実的にありえるのでしょうか?今度もう少し考えてみようと思います。
物体側テレセントリックの概要と特徴
インターネットで参照できる資料としては、Thorlabsのマシンビジョン用両側テレセントリックレンズ、Edmundの技術資料にあるテレセントリックレンズ関連記事が大変参考になります。ポイントを挙げるならば、以下のような点になります。
- 主光線が平行な光学系。成立条件は、入射瞳と射出瞳のどちらか、もしくは両方が無限遠にある。
- 画角がゼロになり、光学系と物体までの距離が変わっても撮像サイズが変わらない。
- マシンビジョン関連のアプリケーションで多く活用される。
そもそもシーケンシャルモードの光線はどのように生成されるのか?
OpticStudioに限らず、シーケンシャルモードの光学ソフトウェアでは点光源から出射する光線は「入射瞳を満たすように」生成されます。入射瞳とは、実際の絞り面より前にある光学系によって形成される、実際の絞り面の像です。筆者は、「入射瞳=光学系の実効的な入口」と理解しています。主光線とは、各視野から絞りの中心に入射する光線です。
絞り、入射瞳、射出瞳については、絞り、入射瞳、射出瞳_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 (1) を参照してください。
余談: 主光線は非常に大事な光線なのですが、ソフトウェアによって主光線の定義が異なるので要注意です。光線のケラレ (ビネッティング) がある場合はさらに主光線の定義は混沌とします。なお、OpticStudioの主光線の定義は、「(ビネッティングがない場合) 入射瞳の中心を通る光線」です。
ビネッティングと主光線については、ビネッティングファクタが解析結果を変える_Zemaxコミュニティ注目トピック (23) を参照してください。
物体面からみて有限の位置に入射瞳がある場合、視野点から瞳の中心へ向かう主光線には角度がつきます。つまり、”光軸上からの主光線”と”軸外からの主光線”でなす角度があります。入射瞳の距離を徐々に物体面から離していくと、その角度は小さくなっていきます。そして、入射瞳が無限遠になれば、なす角度はゼロ、つまり主光線が平行になります。
「テレセントリック物空間」オプションの機能と注意点
OpticStudioシーケンシャルモードのシステムエクスプローラには、「テレセントリック物空間 (Telecentric Object Space)」というオプションがあります。このオプションを有効にすると、光学系の入射瞳がどこにあったとしても、主光線が光軸に平行になるよう強制されます。
ここでの注意点は、このオプションを有効にしても、その光学系が物体側テレセントリックの特性は持たないことです。物体側テレセントリックの条件はあくまで、「入射瞳が無限遠にあること」です。オプションの名前からの印象として、「物体側テレセントリック光学系を設計するときに有効にするのかな?」と思ってしまうかもしれませんが、そうではなくて、OpticStudioは主光線を光軸に平行にするだけですので、ご注意ください。Angelさんの回答にある、「この機能は、ディスプレイやファイバから出力される光をモデル化するときに使います。」という一文が、そのことを示しています (ような気がします)。
テレセントリック光学系を設計する場合は、入射瞳の位置が無限大になるように調整する必要があります。OpticStudioには入射瞳の位置を返すオペランドが用意されているので、入射瞳の位置を無限大にするように最適化することができます。(操作では、入射瞳の位置の値の逆数を取ってゼロを目指す方法をよく使います。)
まとめ
このページでは、Zemaxコミュニティに投稿された「物体側テレセントリック」を取り上げ、OpticStudioの関連機能と併せて説明しました。物体側にしても像側にしても、テレセントリック光学系には多くのメリットがあって、特に産業用の撮像系向けに今後も需要は伸びると思われます。
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