こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?
光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、OpticStudioを使い始める時に必ず見聞きする、「幾何光学」と「シーケンシャル光線追跡」について説明します。
結論
- 幾何光学とは、光を光線とみなしたうえで、図形問題を解くようなやり方 (幾何学) で光の振る舞いを予測する方法 (光学)です。
- シーケンシャル光線追跡とは、光線が到達する光学面の順番があらかじめ決められている光線追跡の方法です。
- どちらも、光の振る舞いを高速・高精度に予測可能で、結像系の光学設計で主に使用されます。
このページの使い方
このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、OpticStudioのシーケンシャルモードについて です。この記事は、OpticStudioのシーケンシャルモードで光学系を設定する方法や、結像光学系の基礎について記載されています。
すでに光学に関する業務に携わっている人にも、これから光学を学習する人にも、参考になる内容が含まれています。このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。
ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。そのため、この記事のタイトルには (1) をつけています。続きの (2) は、結像光学系_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (2) です。
基礎的な光学用語に関する注釈
このページは、Introdution の段落を参照しています。 記事の中で使用されている用語について、説明を加えています。「なんとなく意味は分かるけど、他の人に説明するのは難しい」という状況から、「細かいところは置いといて、要するにこういうことだよ」という状況を目指しています。
幾何光学 (Geometrical Optics)
幾何光学の意味
光の振る舞いを予測する (計算する) やり方には、大きく2種類があります。「幾何光学」と「波動光学」です。この2つは「光の振る舞いをこういう前提で扱えばうまく説明できる」の「前提」が異なっていて、どちらを使用するかは、予測したい内容に従って私たちが適宜判断します。OpticStudioは基本的に幾何光学を基盤にしたソフトウェアです。
「幾何」というのは「幾何学」の略で[1]、幾何学は「図形問題を考える学問」です。図形問題とは、例えば四角形の辺の長さや角度、面積を計算で求めるような問題です。よって、幾何光学は、「図形問題を解くようなやり方 (幾何学) で光の振る舞いを予測する方法 (光学)」といった意味なります。
幾何光学は、「光はまっすぐ進む線 (光線) で表現できる」という前提 (≒ 近似) を使用します。イメージとしては、光を1つの (めちゃくちゃ小さな) 粒の集合体とみなして、その1つ1つの粒が移動する軌跡を線で描いたのが光線です。よく見る図 2-1 は、その粒の集合体のうち、代表的な1点から飛び出した、3本の軌跡だけを描いたものです。
ここまでは理解しやすいですが、もう一つ、大事な前提があります。それは、1つ1つの光の粒はお互いに干渉しない、ということです。「干渉しない」を別の言い方にすると、影響を与えない、独立している、という意味です。例えば、光線が空間上で交差する状況でも、光線が曲がったり、光が弱まったりせず、お互いの存在を無視して光線は進みます。この前提は、経験的に受け入れやすいかもしれません。実際に、懐中電灯を向かい合わせて光らせても、光同士がぶつかって散乱したりはしませんね。
幾何光学は、以下の特徴を持った (前提とした) 考え方です。
① 光の振る舞いを図形問題 (幾何学の問題) として予測する方法
② 光を、粒的なものが飛んでいく軌跡の線、光線で表現する。 (ここを抑えていればOK)
③ 光線同士はお互いに影響を及ぼさず、1本1本を独立して計算できる。
幾何光学の使いどころ
幾何光学は、波動光学よりも強い近似 (無視することが多いこと) を用いています。大きな違いは、波としての性質を無視することです (後述)。よって、「波の性質が顕著に表れない条件下」が幾何光学の使いどころ=波動性を無視する強い近似を使っても問題のない精度で予測結果が得られる、ということになります。
その条件を一言でいえば、「光学系の大きさが波長よりも十分大きいこと」です[2]。十分大きいこと、というのが何ともふわっとした表現で困ります。波長が500nmとして、10,000倍すれば 5mm になってレンズ直径として扱えそうなサイズ感になります。100~1,000倍は波の性質を無視して幾何光学のみを使うと思わぬ結果になる場合があります。10,000倍を超えれば致命的な誤差は避けられる、といったところでしょうか。
この条件は、あくまでれ光学系の大きさ (開口、レンズの直径) の話です。回折格子などの微細加工が施された面や、収差がよく補正された光学系の集光点の解析については、別の検討が必要になります。これらは、別の機会で説明します。(2021年12月27日にOpticStudioでの回折格子について説明した、光の回折と干渉から回折光線_OpticStudioの回折光学面 (1) を追加しました。)
おまけ: 波長と周波数から見る (見えない) 光の姿
波動光学との違いとしてよく説明されるのは、光の波としての性質を無視したのが幾何光学、というものです。光の波長はおよそ 500nm (ナノメートル、nano ナノは 10-9 = 1/1,000,000,000 = 10億分の1) で、1回振動する間に進む距離が 1mm の 1/2000 という、よくわからないレベルの短さです。これを周波数に直すとおよそ600THz (テラヘルツ、ヘルツは1秒間に振動する回数を示す単位、T テラは 10^12、1,000,000,000,000 = 1兆)で[3]、1秒間に 600 兆回振動する波になって、よくわからないレベルの振動数になります。幾何光学では、波長がもっともっと極限に短くて、すなわち周波数がもっともっと極限に大きい、と仮定 (≒近似) しています。
シーケンシャル光線追跡 (Sequential Raytracing)
シーケンシャル光線追跡の意味
シーケンシャルは英語で、Sequential です。形容詞で、意味は、順次的な、一連の、順々に起こる[4]です。「順次」は、順序に従って物事をするさま[1]です。
「シーケンシャル光線追跡」の意味は、(あらかじめ決められた) 順序に従って、光の粒の進み方 (=光線) を計算によって予測する (=追跡) ことです。大事なのは、「あらかじめ決められた順序」になります。
- 「誰が」、「何の順序を」、「どのように」決めたのか、と言うと ↓↓
- 「OpticStudioの使用者が」、「光線が次に到達する面を」、「番号をつけて並べる」ことで決めます。(ここを抑えていればOK)
シーケンシャル光線追跡 (シーケンシャルモード) の使いどころ
いわゆる、「光学設計」をするときです。光学設計をしていると、数えきれない回数の設計案が作り出されて、その都度、その光学系を通過していく多量の光線の軌跡が計算されます。シーケンシャル光線追跡の特徴は、追跡する光学面の順番が決まっていることでした。
面Aから出てきた光線が面Bに入射して、面Bの光学特性 (形状とか屈折率) によって光線の状態 (方向、強度) を調整したのち、面Cに向かって出射する。シーケンシャル光線追跡はこれの繰り返しで、これ以外の経路を考慮しません。このように、光線が進む経路を極限まで絞り込むことで、計算量を削減しています。
また、シーケンシャルモードは、ノンシーケンシャルモードに比べて、いわゆる光学性能を解析する機能が充実しています。記事でも言及されている、公差解析も含みます。この充実した解析機能も、光線が進む経路を極限まで絞り込んだことで実現しています。同じ解析結果をノンシーケンシャルモードで取得することも不可能ではありませんが、追跡した光線の特性を取得するだけでもかなりのリソースが必要となります。
OpticStudioには、シーケンシャル光線追跡の対となる「ノンシーケンシャル光線追跡」もあります。ノンシーケンシャル光線追跡については、またの機会で説明します。(2021年8月17日に、ノンシーケンシャル光線追跡に関するページを作成しました。)
まとめ
ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、OpticStudioのシーケンシャルモードについて から、Introdutionに登場する「幾何光学」と「シーケンシャル光線追跡」について、言葉の意味と使いどころの目安について説明しました。
次回は引き続き同記事に登場する、聞いたことはあるし意味も理解しているつもりだけど、他の人に説明しようとするとちょっと困る「結像光学系」をピックアップして、説明を加えたいと思います。
<参考>
- デジタル大辞泉 (小学館), goo辞書経由
- https://www.cybernet.co.jp/optical/course/word/k10.html
- https://keisan.casio.jp/exec/system/1240368538
- 英辞郎 on the web
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