[92] .ZMXファイルの復権 (.ZOSとの共存)__Zemaxコミュニティ注目トピック (22)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、Zemaxコミュニティで注目されているトピックから、OpticStudio 21.3で追加された.ZOS ファイルにより、非推奨になった従来の.ZMXが、OpticStudio 22.2のリリースで復権した件について取り上げます。

Zemaxコミュニティについては、こちらのページ で概略を説明しています。

結論

  • OpticStudio 22.2から従来の.ZMXファイルは.ZOSファイルと同列の関係となり、ユーザは自分の好きなデフォルトのフォーマットを選択できるようになりました。
  • この方針からは、「将来的に.ZMXを廃止することで、最新版で作成した設計データを.ZOSをサポートしない古いOpticStudioで開けなくなる」という既存ユーザにとって厳しい状況からは遠ざかったと言えそうです。

このページの使い方

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。

興味を持ったトピックに質問やコメントをしてみると、世界のOpticStudioユーザやZemaxエンジニアからの回答があるかもしれません。

.ZMXファイルをデフォルトのフォーマットに設定したい

トピックへのリンク: デフォルトで.ZMXで保存したい

Save .ZMX files by default

質問というか要望は、「OpticStudioの設計データを保存するとき、(新しいフォーマットの.ZOSではなくて)デフォルトで従来の.ZMXで保存してほしい」でした。

質問の前提知識_.ZMXと.ZOS

OpticStudioで作成した光学設計データを保存するとき、従来は.ZMXという拡張子がついたエディタの情報を保存した設計ファイルと、.ZDAという拡張子がついたウィンドウの構成や解析結果を保存したセッションファイルが2つペアで作成されます。.ZDAについては、ZDAと解析機能_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (5 fin) を参照してください。

.ZMXファイルは実は単純なテキストファイルです。メモ帳やノートパッドで開くと、レンズデータエディタやメリットファンクションエディタで設定した面タイプやオペランドやらの情報が羅列されます。OpticStudioを触った経験があれば、どの部分がどの設定に相当しているかを判断するのはそんなに難しいことではありません。

.ZOSファイルは、.ZMXをバイナリ形式にしたファイルフォーマットで、記録している情報は.ZMXと同じだけど、テキストエディタでは読める状態で開けません。バイナリ形式にする一番のモチベーションはセキュリティ保護です。.ZMXファイルがあれば、OpticStudioがなくても設計データが知られてしまいます。.ZOSについては、.ZOS ってなに?_Zemaxコミュニティ注目トピック (4) を参照してください。

.ZOSを搭載したとき、OpticStudioは.ZMXファイルの排除はしませんでしたが、非推奨扱いとしました。OpticStudio 21.3以降、新規作成した設計ファイルのデフォルトの拡張子は.ZOSとなり、.ZMXファイルとして保存することはできましたが、専用の機能を実行する手間が要求されました。ついでに、「非推奨だから」と警告メッセージが出されるので、進めるためのクリックが一回増えていました。

既存ユーザの不安

.ZOSが搭載され、.ZMXが非推奨になったことに最も反応したのは、長くZEMAXやOpticStudioを使用してきた既存ユーザでした。一番の理由、懸念事項は、「OpticStudioが将来的に.ZMXを完全に廃止して、前バージョンとの互換性を断つのではないか」ということでした。つまり、新しいバージョンで保存したファイル(.ZOS)は、.ZMXしか開けない古いバージョンでは開けない状況です。

このようなバージョン互換性はソフトウェアによって様々です。例えば、メカCADでは新しいバージョンで作成したファイルを古いバージョンで開けないことはよくあります。だからOpticStudioもそれに倣っても構わないよね、と言われても、ユーザ心理として納得しがたいことは筆者も理解できます。

結局のところ、バイナリ形式だからセキュリティが良いとか、データ管理のための新機能を搭載するための基盤とか未来の話より、手元のOpticStudio環境が脅かされることへの拒絶反応が強かったように、筆者個人は感じます。それこそ、ZEMAXがOpticStudioになったときのZEMAXユーザの感情と近いかもしれません。

コミュニティにはいくつかのトピックが作成され、.ZMXサポートの継続(Zemaxが打ち切ると言ったわけではないですが)や、今回取り上げたデフォルトの保存形式にしてほしいという要望、他のソフトウェアへの乗り換えを検討する必要があるといった意見が散見されました。ZEMAX13ユーザが多くいることも、これら反応の一つの要因かもしれません。

.ZMXファイルの復権

OpticStudio 22.2が6月1日にリリースされています。光ラーニングでも近く機能レビューを予定しています。ここで、「.ZMXファイルフォーマットが.ZOSと同等に扱えるようになる(復権する)」という項目がありました。ZemaxのAlissaさんが説明した理由としては、「AnsysによるZemax買収によって、OpticStudioの製品ロードマップが再評価される中での決定」とのことです。組織が変わったことで製品の方針が調整される、面白い背景だと思いました。

詳細な理由は知りようもありませんが、フォーラムで表明された.ZOSと.ZMXに対する多くのコメントも、今回の決定の後押しをしたかもしれません。

なにより既存ユーザが安心したのは、最新バージョンと古いバージョンで設計ファイルの共有がこれまで通りできる見通しが立った、ということではないでしょうか。もちろん、長いスパンで見ればファイルフォーマットが刷新されるリスクは常にありますが、少なくとも.ZMXの非推奨扱いが解除されたことで数年単位で既存の設計環境が保たれそうです。

.ZOSの今後

今回取り上げたフォーラムの中では、.ZMXと.ZOSについての自由なディスカッションがされています。元ZemaxのMarkさんからも、現状の.ZOSはなくなっても困らない的な意見もあります(笑)。

確かに今の.ZOSは.ZMXをバイナリにしただけで、.ZOSならではの利点は見られません。そのため、どうしてもネガティブな方向に感じてしまうのは、人情というモノでしょうか。

セキュリティ性の向上は確かにありそうですけど、セキュリティ性のありがたさは、機密情報の漏洩が露見して痛い目を見るまで実感できないのかもしれません。情報を搾取した人が「搾取しました」とは教えてくれないので、.ZMXで問題ないと思っているのは私たちだけで、第三者の設計情報を.ZMXファイルから取得していた人たちもまた、今回の決定を喜んでいる可能性もあったりして。

まとめ

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿された「デフォルトで.ZMXファイルで保存したい」をトピックに取り上げ、OpticStudio22.2 で.ZMXが非推奨扱いから解除されたことを説明しました。去年から続いていたOpticStudioのファイルフォーマット刷新に関する騒動(?)は、既存ユーザが望む形で着地しました。

企業としては常に前に進み続けなければならない、私たちユーザとしては積み上げてきた知見や資産は継続的に活用したい。これは必ずしも相反するものではないと信じています」というのは、.ZOS ってなに?_Zemaxコミュニティ注目トピック (4) のまとめでも述べた筆者の考えで、これに変わりはありません。このまま.ZOSは思い出になるかもしれませんが、筆者としてはバイナリ形式ならではの機能向上に期待したいことろです。

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