[67] 回折面の位相形状(モジュロ2π)_バイナリ2面を使用した回折光学系(2)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。 このページでは、OpticStudioの回折面である、バイナリ2面と回折格子(グレーティング)が光線に与える位相分布の形状について、モジュロ2πの考え方とともに説明します。

結論

  • 回折面の位相変化量は、実際の値を与えません。2πで折り返します。2πで折り返すことで、前後の波と合流して、所望の波面を得ることができます。
  • 回折格子も同じように考えることができ、回折格子は線形の位相変化を与えます。2πで折り返す位相変化を与える回折格子の形状を見ると、ブレーズド回折格子の形状になっています。

このページの使い方

このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、バイナリ 2 面を使用した回折光学系の設計方法 です。この記事は、OpticStudioの数ある回折面でもよく使われる、バイナリ2面の使い方を紹介した記事です。

このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。この記事は2番目です。

回折面が実際に与える位相変化

バイナリ2面は、軸対称の位相変化を光線に与えます。集光レンズのような回折面を想定したとき、光線に与える位相変化量は中心から離れるほどに大きくなっていきます。しかし、現実の光学部品が与える位相変化の形状を考える場合、2つの点で、下図のバイナリ2面の位相形状とは異なります。

図 67-1 バイナリ2面が与える位相変化Φ。数式上、位相変化の大きさに制限はない。

位相形状を折り返すモジュロ2π

回折面の位相形状は、連続的で数値の大きさに制限なく設定できます。その位相分布の形状を実現するには、数値を2πで折り返します。この作業をモジュロ2πと言います。2πの幅を0~2πでとったとき、位相変化が2πを超えたら0に戻します。

2πで折り返した時の幅が、回折格子のピッチ幅に相当します。また、2π変化する間隔のことを回折ゾーン(Diffraction Zone)と言います。つまり、回折面の位相形状は、回折格子のピッチの分布を表していると言えます。

位相形状の傾きが小さい場合は、回折格子のピッチが広く、回折光線の曲がりが小さくなります。

位相形状の傾きが大きい場合は、回折格子のピッチが狭く、回折光線の曲がりが大きくなります。

集光レンズのような回折面でみると、中心付近は位相の傾きが小さく光線は小さく曲がりますが、中心から離れて位相の傾きが大きくなるほどに光線が大きく曲がることが分かります。

図 67-2 モジュロ2πは変化幅を2πで折り返す。位相変化2πの間隔が回折格子のピッチ幅になる。

モジュロ2πの位相変化による波面変形

このモジュロ2πの処理後の位相面が波面に与える影響を、同じく集光レンズのような回折面で確認します。仮に連続的な位相変化を与える面、光学部品があった場合は、出力される波面は通常のレンズと同様に、つながった1枚の収束波面になります。

では、モジュロ2πの処理後の位相面を通過した後の波面はというと、回折ゾーンの幅でスライスされたうえで、波が1つ(2πラジアン)分後ろにずれたとびとびの波面になります。

基本的なことですが、光の波は同じパターンが何度も繰り返しでやってきます。そのため、下図左のオレンジの波面の後には、緑色の波面、黄色の波面(図示無し)と同じパターンのとびとびの波面が出射していきます。

下図右のように、いくつかのとびとびの波面が足し合わさることで、バイナリ2面で設定する青線の連続的な位相変化が出力する、収束波面と同等の波面が生成されます。

図 67-3 モジュロ2πの位相形状によって透過収束波面が形成されるイメージ。

位相の形状 ≠ ガラス状に形成する回折ゾーンの形状

ここまで述べてきたのは、あくまで「位相の形状」で、縦軸の単位はラジアンです。実際の回折面はガラスのような1より大きな屈折率を持った基板材料の上に形成されることになります。そのため、位相形状をレンズ単位で算出してから、ガラス上のサグ形状として形成する必要があります

このページでは深く触れませんが、位相面から回折面のサグ形状への変換については、Zemaxの技術記事 How to calculate the sag of a diffractive optical element with a macro (英語) を参照してください。興味深い内容なので、光ラーニングでも取り扱いたいと思います。

ここまでの話を網羅的に、ずっと学術的に説明している資料もインターネットで取得できるので、ぜひ参照してください[1]。

回折ゾーンの内部が理想的な曲線(キノフォーム)ではない

そもそも、なぜバイナリ2面は、「バイナリ」と言われるのでしょうか。バイナリとは、0と1からなる2値で様々なものを表現する(2進数を指すことも)ことです。

バイナリ型回折光学素子は、回折面の位相形状が複数のステップで構成された階段状のサグ形状を持った素子を意味します。階段状のサグ形状は、フォトリソグラフィの技術を使うことで実現できます。

おそらく、回折面の名称を決める時もっとも実用性の高かったバイナリ型光学素子を意識して、「バイナリ面」と名付けたのかな、と思ったりしました。

バイナリ型にしてもそれ以外の型にしても、バイナリ面が定義する連続的な位相変化を与える微小構造(キノフォーム)を実現するのは、製造技術上の難しさがあります。理想的な形状との差異は、所望の回折光線に割り振られるエネルギーの低下、いわゆる回折効率の低下という形で現れます[2]。

図 67-4 階段数と回折効率の変化。6ステップで回折効率は90%を超える。ただ、設計の入射角度と波長のみで達成できる。
Optical System Design, Second Edition

回折格子(グレーティング)の位相変化を改めて確認

最後に、回折格子の位相形状がを確認しましょう。ナレッジベースまとめ_OpticStudioでの回折面の取り扱い では、回折格子は溝のピッチで回折光線の方向が決まる、と説明していました。回折の方程式を見ても、回折格子のパラメータは溝のピッチでした。

(一般的な)回折格子は、面内で溝の周期が一定です。なので、平行光が入射したとき、平行な光線が屈曲して同じ方向に向かって伝搬するのでした。

回折格子が光に与える位相変化は斜めの直線になります。これは、ウェッジプリズムを挿入した場合とに似ていします。さらに、上で説明したようにモジュロ2πで与える位相分布を分割できます。この形状は、ブレーズド回折格子になっています。

図 67-5 回折格子の位相形状。直線的な位相形状をしており、扱いとしてはバイナリ面などと同じと解釈できる。

このように、OpticStudioの回折面である回折格子(回折グレーティング)と、バイナリ2面のような位相面は、OpticStudio内部では光線に位相変化を与える面として、同じように扱われます

まとめ

ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、バイナリ 2 面を使用した回折光学系の設計方法 から、実際の回折面が光線に与える位相変化の形状について説明しました。位相を2πで折り返すモジュロ2πは、折り返さない位相形状と同じ影響を波面に与えます。

OpticStudioの回折面である回折格子(グレーティング)と位相面(バイナリ面やゼルニケ位相面)は、位相形状の設定方法こそ異なりますが、回折光線の計算としては同じように処理されます。

<参考>

[1] 鈴木、高田、”回折光学素子を用いた光学設計”、光学 25巻12号 (1996)、p.684-689、https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/25-12-kaisetsu2.pdf

[2] Optical System Design by Robert E Fischer, Biljana Tadic-Galeb and Paul Yoder

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