[37] 横収差図(光線収差)_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (8)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、OpticStudioシーケンシャルモードでよく使う解析機能、「横収差図」について説明します。

結論

  • 光線収差=横収差は、像面上での主光線の位置に対して、主光線以外の光線の位置ずれ量です。
  • 横収差図は、瞳座標をX軸とY軸に光線をサンプリングして表示するのが一般的です。ちなみに、光学の慣例で、Y軸が優先されて左側に表示されます。
  • 最適化ウィザードの「スポットサイズ」の最小化は、瞳座標をサンプリングして、それぞれの光線の横収差が最小になるようにオペランドが生成されます。

このページの使い方

このページで参考にした技術記事(ナレッジベース)は、 シングレット レンズの設計方法 パート2 です。この記事は、OpticStudioのシーケンシャルモードでシングレットレンズ(単レンズ)を設計するプロセスのうち、光学性能を評価する機能を紹介した入門記事になります。

このページでは、ナレッジベースで使われている光学用語、技術用語、前提知識について、もう一歩踏み込んだ説明を加えていきます。ナレッジベースの長さは記事によってまちまちなので、いくつかのブロックに分けて注釈を加えています。この記事は8番目です。(7)は 正規化(視野, 瞳)座標_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) です。

光線収差 (Ray Aberration)

結像光学系では、物面上での1点から出射した光線が像面上で1点の点像に集光される状態を目指します。しかし、現実の光学系では「すべての光線が1点で交わる」理想的な点像を得ることはできず、いくらかの空間的なばらつきが生じます。このばらつきのことを「光線収差」と言います。

図 37-1 「収差」は理想的な結像からのズレのことで、「光線収差」は収差の表現方法の一つ。

収差が大きいレンズで写真を撮ると写真はピンボケになります。カメラレンズがたくさんのレンズを組み合わせているのは、この収差をできる限り抑え込むことが目的です。もし光線収差を1枚のレンズで完璧にコントロールできる魔法のレンズが実現したら。。。光学設計者は職を失うのかもしれません。

横収差図 (Ray Fun Plot)

理想的な結像状態からのズレを定量的に評価する手法の1つが、横収差図です。OpticStudioにもこの機能は搭載されています。リボンバーから機能を選択するときは光線収差(Ray Aberration)を選択しますが、表示される解析ウィンドウの名前は横収差図(Ray Fan)となります。言葉が変わっていますが気にしなくてOKです。光線収差の表現方法として、横収差図があります。

機能の概要を見ると、「瞳座標の関数として光線の収差を表示します。」とあります。筆者にとってこの説明は単純すぎて、最初はよく理解できていませんでした。このページでは、横収差図の概要について説明を追加します。

図 37-2 光線収差を示す横収差図。瞳座標(横軸)を関数として光線収差(縦軸)を表示している。

横収差図のグラフ構成

横収差図の軸を確認します。横軸が「瞳座標」で縦軸が「横収差の大きさ」です。プロットの線が必ず原点を通っています。各視野につき、2つのグラフがペアで表示されており、左のグラフの軸が(Px, ey)、右のグラフの軸が(Px, ex)となっており、それぞれyとxの添え字がついています。

瞳座標の中心 = 主光線、瞳座標の端 = マージナル光線

ここでの瞳とは「入射瞳」です。入射瞳は光学系の実質的な入口で、入射瞳を満たすように光線を生成することで、光学系を通過できる光線を(おおむね)すべて追跡できます。絞り、入射瞳、射出瞳_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 (1) もご参照ください。入射瞳の中心を通る光線を特別に「主光線」と呼び、これが瞳座標の中心を通る光線です。主光線、マージナル光線_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 (2) もご参照ください。

横軸の瞳座標(PyとPx)は、正規化瞳座標です。中心がゼロで、上限左右端がそれぞれ±1.0で入射瞳の端となります。正規化瞳座標については、正規化(視野, 瞳)座標_シングレットレンズの設計(OpticStudio入門) (7) を参照してください。瞳座標の端を通る光線は、マージナル光線です。上でリンクを貼った光ラーニングのページも参照してください。

横収差 = 主光線からの距離的なズレ量

収差とは、光線が「本来到達してほしい位置」からのズレです。主光線の横収差の値はゼロになっているので、主光線が到達している位置が「本来到達してほしい位置」、つまり基準となっています。結像性能が理想的な結像光学系の場合、点光源から出射した光線はすべて主光線と同じ位置に到達して、スポットサイズは無限小になります。しかし、現実の光学系ではそうはならず、主光線でない光線のほとんどは、主光線の位置からズレた位置に到達します。この主光線が到達した位置との「距離的なズレ量」のことを横収差と言います

図 37-3 横収差は、光線ごとに定義できる。

おまけ: 横ってどっち?縦もあるの?

”横”収差と言いますが、レイアウト図で見たときの収差=光線のズレは画面の縦方向ということになります。”縦”収差もあって、これは光軸方向の収差で、レイアウト図で見たときの”横”方向になります。筆者は最初は少し混乱していましたが、慣れるのが解決策です(たぶん)。

図 37-4 横収差と縦収差の測定方向。Lateral(横)とLongitudinal(縦)で日本語と英語の概念が微妙にずれているのかも。

タンジェンシャルとサジタル

入射瞳の中心(主光線)から離れた位置に向けて出射された光線について、主光線の位置からのズレ量をプロットしたのが横収差図です。では、中心からどのように離れていくかといえば、わかりやすく、縦方向と横方向に動かしていくのが一般的です。横収差図がペアになっていて、yとxになっているのは、それぞれ縦方向に主光線から離れた場合と、横方向に主光線から離れた場合を表しています。

図 37-5 正規化瞳座標で評価する光線の方向を決めて、評価面に到達した位置で主光線との差分をプロットする。

OpticStudioの大事な定義・規則として、タンジェンシャルとサジタルがあります。タンジェンシャルとはy軸方向の断面で、サジタルはx軸方向の断面です。OpticStudioの採用しているタンジェンシャル・サジタルについては、OpticStudio でのタンジェンシャルとサジタルの考え方および光線の回転方法(Zemax技術記事) を参照してください。光学系の評価において軸の取り方は極めて重要になるので、この定義・規則は必ず押さえるようにしてください。特に、他のソフトウェアに慣れた上級者ほど、落とし穴にはまるリスクがあります

図 37-6 OpticStudioのタンジェンシャルとサジタル。X軸とY軸断面となっていることに注意。 OpticStudio でのタンジェンシャルとサジタルの考え方および光線の回転方法(Zemax技術記事) から引用。

非常に混同しやすく、かつよく使われる定義として、メリジオナルとサジタルがあります。メリジオナルが放射方向の断面で、サジタルが同心円方向です[1]。

図 37-7 メリジオナルとサジタルの方向。「虹色の旋律」様の記事より引用。

おまけ: 光学の世界では y 軸の方が優先される?

細かい点ですが、ここで気づくのは、左側にy軸のプロットがあって、右側にx軸のプロットがあることです。x>yの順番でなくて、y-xの順番になっているのも、光学の慣例が関係していると思います。光学系のレイアウト図はデフォルトで、画面の右方向にz軸を取って、画面の上方向にy軸を取って、画面の奥行方向にx軸を取ります。2つの座標系_OpticStudioのシーケンシャルモードについて (4) も参照してください。この軸配置の場合、主光線から離れていく光線を表示するときはy軸方向に描画するほうが好都合です。x軸方向に離しても、伝統的な軸対称光学系の場合は表示する光線は光軸と一致して見えません。

スポットダイアグラムと同じ点と違う点

光線収差は、完全な幾何光学に基づいた解析機能で、光線の位相も考慮する必要がありません。光線が到達した位置(座標)を結果として出力します。これはスポットダイアグラムと同様です。よって、スポットダイアグラムの結果と横収差図の結果は、「同じ解析結果を別の見せ方をしている」という関係にあります。筆者の主観で、以下のようなメリットデメリットがあるので、状況に応じて使い分けます。

スポットダイアグラムの利点は、すべての光線の結果を含められる点です。入射瞳全域に入射した光線によって形成されるスポット形状を確認できるので、光学性能を直観的に判断することができます。一方で、光線収差で追跡される光線は、タンジェンシャル・サジタル面の2つの断面に含まれる光線のみです。

光線収差の利点は、収差の解析が容易なことです。収差に関する知識があれば、横収差図のプロットから光学系に含まれている収差を分類して、その収差を低減するような設計の修正を具体的に検討できます。とはいえ、スポットダイアグラムでもできないわけではありません。コマ収差や非点収差はスポットダイアグラムにおいて特徴的な形状を示します。少なくともOpticStudioのスポットダイアグラムでは、どの光線が瞳座標のどこからきて、主光線の位置からどっち方向にズレたか分からないので、詳細な収差の検証は難しいです。

最適化ウィザードの目標: スポットは光線収差の最小化を目指す

OpticStudioの自動最適化機能にある「最適化ウィザード」機能の中で、最適化のターゲットとして最もよく利用するのは「スポットサイズ」の最小化です。スポットサイズが小さくなれば、撮影した結果は鮮明になります。この設定で、最適化ウィザードが自動生成するオペランドは、「横収差をゼロにする」ように設定されます。

光学性能をよくしたい > スポットサイズを小さくしたい > 光線ができるだけ主光線の近くに到達してほしい > 横収差をできるだけ小さくしたい、という意図に基づいて、最適化ウィザードはファイルで設定されている視野、波長、コンフィグレーションごとに瞳座標をサンプリングしてオペランドを生成しています。これらの内容については、シングレット レンズの設計方法 パート3: 最適化 (Zemax技術記事) の説明の時にできればと思います。

図 37-8 最適化ウィザードで生成した最適化オペランド。TRCX, TRCY は”セントロイド基準で”測定した横収差を出力する。

詳細な収差の判断については割愛します

前述の通り、横収差図のプロット形状からどのような収差が含まれているか、またどの収差が支配的かを読み取れます。このページでは横収差図の読み取りまでには踏み込みません。収差の読み取りについては、光学の教科書であったり、専門書を参照してみてください。「収差にはどんな種類があるか?」といった疑問については、さらに理解を深めるための顕微鏡知識収差とは(株式会社ニコンソリューションズ) が図もたくさんあっておすすめです。

まとめ

ここでは、Zemaxのホームページからアクセスできる公開記事、 シングレット レンズの設計方法 パート2 から、OpticStudioのシーケンシャルモードの解析機能でよく使用される「横収差図(光線収差)」について説明しました。タンジェンシャルとサジタルの定義はとても重要なので、ぜひ押さえてほしいです。次回は、「光路差図」について説明します。

<参考>

[1] http://nijikarasu.cocolog-nifty.com/blog/2014/12/post-9f81.html

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