[41] 波面収差の基準、参照球面_Zemaxコミュニティ注目トピック (6)

OpticStudio

こんにちは。光学、光でのお困りごとがありましたか?

光ラーニングは、「光学」をテーマに様々な情報を発信する光源を目指しています。情報源はインターネットの公開情報と、筆者の多少の知識と経験です。このページでは、Zemaxコミュニティで注目されているトピックから、OpticStudioが波面収差を出力する際の基準とする、参照球面を取り上げます。

Zemaxコミュニティについては、こちらのページ で概略を説明しています。

結論

  • 参照球面の波面形状は球面で、その曲率半径は像面から射出瞳位置までの距離と等しいです。
  • 軸外の参照球面の場合、像質に影響しないティルトの成分が除去されます。
  • 参照球面は自動計算されますが、いくつかのオプションがあります。ただし、上級の設定なのでよく理解したうえで使用します。

このページの使い方

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿されたトピック中から、よく参照されているもの、コメントが多いもの、筆者が気になったものを取り上げて紹介します。よくある疑問や注目されているトピックについての情報を発信することで、何かしらの気づきとなれば幸いです。

参照球面の波面 (The wavefront of the reference sphere)

トピックへのリンク: 参照球面の波面

質問の内容は、「参照球面の波面データを取得する方法」でした。参照球面は、理想的な結像を実現する理想的な波面です。光路差図(OPD: Optical Path Difference)や波面収差を計算するときの基準となり、OpticStudioの解析機能を使用するうえで重要な概念となります。

ディスカッション内容

Markさんからの回答は非常にクリアなものでした。「(軸上での)参照球面は、射出瞳位置と等しい半径を持った完全な球面形状です。射出瞳の位置は、EXPPオペランドで取得きます。光学系の波面とは、EXPP位置における実際の波面から参照球面を引いた形状になります。軸外での定義も同じですが、ティルト収差のために少し複雑です。OpticStudioはティルトを除去した参照球面を使用します。ティルトの除去によって、像の質に影響する物理的に有意な波面を出力します。」

ここでの像の質とは、スポットの大きさを指します。ティルトは、スポット位置が理想的な座標からズレる収差で、スポットサイズ(=解像度)には影響しません。そのため、OpticStudioのいくつかの機能に、ティルトを取り除くオプションがついています。

次に、OpticStudioの参照球面を表示するトピックを紹介します。

レイアウトプロットでの参照球面の表示 (Display reference sphere on a layout plot)

トピックへのリンク: レイアウトプロットでの参照球面の表示

参照球面に関連したトピックとして、レイアウトプロット上に可視化する方法の質問がありました。参照球面の定義から、射出瞳を表示する方法がベースになっていますナレッジベースまとめ_OpticStudioレイアウトでの入射瞳/射出瞳の表示 と、絞り、入射瞳、射出瞳_OpticStudioレイアウトでの瞳の表示 (1) も参照してください。

ディスカッション内容

ZemaxのSandrineさんらかの回答では、瞳位置ソルブとピックアップソルブを使用した方法が紹介されています。これは、上で紹介したナレッジベースで記載されている方法と同じです。

  • レンズデータエディタの像面の前に、2行のダミー面を追加します。
  • 追加した1行目では、像面から光学系の射出瞳の位置まで瞳位置ソルブで移動します。この移動は、実際に光線が戻っていくのではなく、仮想的な伝搬=バーチャルプロパゲーションになります。
  • 追加した2行目が参照球面そのものになります。
    • 曲率半径にピックアップソルブを設定して、瞳位置ソルブの値を参照します。符号を反転させるため、倍率を -1 にします。これによって、この面は射出瞳位置と等しい曲率半径を持った、完全な球面となります。
    • 厚みに同じくピックアップソルブを設定し、瞳位置ソルブの値の -1 倍として、像面の位置まで戻します。
図 41-1 光学系の参照球面。射出瞳の位置で、像面からの距離に等しい曲率半径の球面。

レンズデータエディタでの設定は以下のようになります。

図 41-2 参照球面を表示するエディタの設定。5行目のRadiusが参照球面の曲率半径。コミュニティポストから引用。

OpticStudio内での参照球面

上で紹介されている参照球面の表示方法は、あくまで私たちユーザが「参照球面はこの(射出瞳の)位置にあって、このくらいの(像面から射出瞳までの距離と同じ)曲率半径を持った面なんだな。」と視覚的にとらえるためのテクニックですので、評価目的で行う必要はありません。

実際に光学系から出力される波面を評価する場合は、上と同じような処理をOpticStudioが内部的に行ってくれて、実際の波面と参照球面の差分だけを出力してくれます。この「実際の波面と参照球面の差分」のことを波面収差といい、OpticStudioで確認する場合は、「光路差図」や「波面マップ」といった解析機能を使用します。

ほとんどの光学系では、OpticStudioが自動的に計算した参照球面に基づいた解析は有効に働きます。しかし、それではうまくいかないことがあるのも事実です。OpticStudioには、任意とまではいきませんが、参照球面を選択するオプションがあります。システムエクスプローラ、上級タブにある、OPDの基準です。どうしても波面収差がうまく解析できない場合は、こちらのオプションを確認してみるとよいかもしれません。

「上級」とあるように、このオプションは安易にいじらない方がよいと思います。筆者もあまり使ったことがなく、ここで簡単に説明はできません。もっと勉強したうえで、いつか光ラーニングでも取り上げたいと思います。

詳細に関する学習

波面収差の詳細については、一般的な光学に関する書籍で確認できます。インターネットの資料だと、牛山先生が執筆された光学ノーツにて学習できます。株式会社オプティカルソリューションズ様が公開されている、光学ノーツ13 波面収差について1 を参照してください[1]。こちらのページは、光学で困ったときに最初に訪問する場所になります。

図 41-3 参照球面(Sの破線)と実際の波面(Mの実線)。その差分が波面収差(Δw or Δw’)。光学ノーツより引用。

まとめ

このページでは、Zemaxコミュニティに投稿された「参照球面の波面」「参照球面の表示方法」を取り上げました。解析機能の基準は出力結果を理解するうえで重要になります。そういった意外と見落としがちな前提についても、引き続き取り上げていきたいと思います。

<参考>

[1] 株式会社オプティカルソリューションズ HP、光学ノーツ

コメント

タイトルとURLをコピーしました